2013.3.26 緻密なキャラクター描写 【孤独の歌声】
評価:3
■ヒトコト感想
それぞれがトラウマを抱えながら、事件を通して自分の人生を見つめなおす。テープを持ち歩き、気が向けば歌詞を吹き込む潤平。冒頭から、潤平の怪しげな行動から、何かしら事件を起こす匂いを感じてしまう。その後、露見する様々な事件について、常に潤平が何かしら影響をおよぼしているような錯覚を読者に与える。
様々な視点から描かれる本作。猟奇的な殺人事件の犯人目線は強烈だ。犯人の異常心理が形成された原因まで詳細に描かれ、キャラクターの人格がかなり綿密に描かれている。そんなキャラクターがあってこそ、普通ならば現実味のないキャラとして軽く流す人物にも、気持ちを集中して読んでしまう。細部まで作りこまれたキャラクターにより成り立つ物語だ。
■ストーリー
凄惨な殺人事件が続発する。独り暮らしの女性たちが監禁され、全身を刺されたかたちで発見されたのだ。被害者の一人が通っていたコンビニエンス・ストアの強盗事件を担当した女性刑事は、現場に居合わせた不審な男を追うが、突然、彼女の友人が行方不明に。孤独を抱える男と女のせつない愛、噴き上がる暴力
■感想
猟奇的殺人事件にコンビニ強盗。女刑事が捜査し、孤独にロック歌手を目指す潤平が事件に関係することになる。潤平のキャラクターが絵に描いたような人間嫌いのロック歌手志望の男で、最初は興ざめした。
しかし、キャラクターとして薄っぺらいと感じたのは序盤まで、そこからさまざまなトラウマや、他人との関係により作り上げられたキャラクターだとわかると、キャラに厚みがでてきた。極めつけは、捜査に心血を注ぐ女刑事だ。決して拭い去ることのできない大きなトラウマを抱えている。
猟奇殺人の犯人の異常さは群をぬいている。表面上はごく普通の常識人としてふるまい、波風立てずに生活するが、裏では異常な心理状態となる。その異常さは単純なものではなく、幼少期の経験や、親との関係など、異常な犯人を作り上げたバックグラウンドがしっかりと描かれている。
犯人が監禁した女性たちへの仕打ちはすさまじい。こんな異常な人物がいるのかと思わずにはいられない。キャラクターとしての特異さは衝撃的だ。
本作はトラウマの物語だ。女刑事や潤平や犯人までもが、なんらかのトラウマにとりつかれている。そのトラウマをとりはらうことができなとしても、前向きな考え方になりさえすれば救われる。そんな結末に思えた。
潤平のバイト仲間である中国人の高が、どんな辛い状況であっても明るく前向きに生きる姿というのが、周りにも力を与える。ミステリーの陰に隠れてはいるが、人の心理状態をどのようにして安定させるかまで言及されているような気がした。
どのようにして犯行が露見するのか。このあたり、犯人像を含め宮部みゆきの「模倣犯」に近い雰囲気を感じた。
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