傷つきやすくなった世界で  


 2012.3.3   一貫したスタンス 【傷つきやすくなった世界で】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

「R25」で連載のエッセイをまとめた本作。「空は、今日も、青いか?」の続編だが、前作ほど作者のパーソナリティを感じることはできなかった。そのかわり、時事問題をひんぱんに取り上げている。ある程度時間が経っているので時事問題は微妙だが、作者のこだわりというのは伝わってきた。格差社会やネットカフェ難民など、作者の作品に色濃く反映されている話題ばかりだ。それらの問題に対して、何か明確な解決策を提示するわけではなく、身も蓋もない言い方をすれば、ただ励ましているだけだ。それでも、そこには悩んでいる人を元気にさせる変な説得力がある。テレビなど見る限りではそれほど作家らしく感じないのだが、エッセイを読むと、やはり作家なのだなぁと感じずにはいられない。

■ストーリー

格差社会、勝ち組負け組、ネットカフェ難民、少子化、サービス残業、いじめ―時代の風がどんなに冷え込んでも、明日はきっと大丈夫。若い世代に向け、著者が優しく力強いメッセージを贈る。「R25」の好評連載「空は、今日も、青いか?」をまとめたエッセイ集。

■感想
本作では時事問題についてのエッセイが中心となっている。サービス残業だらけで遊ぶ暇がない若者たちに、週3回はノー残業デーとし、そのかわり街に遊びに行けという。作者のこの単純な理論が好きだ。別に本気でそう思っているわけではないだろうが、作者なりの少子化対策ということで、個性はある。R25の読者をターゲットにしているということで、未来に希望をもち、家族を持つことの良さをしきりにアピールしたり、もっと遊べと言ったり、作者のイメージそのままの軽薄さ(前作でもそんな感想をもった…)は期待を裏切らない。

作者の時事問題に対する意見があり、それを読むと、時間の経過を感じるとともに、すでに過ぎ去った過去のことなので、なんだか変な感じになる。このころはこうだけど、実は今はもっと大変なことになっている、なんてことをエッセイを読みながら思ってしまう。やはり、時事問題を扱うと、どうしてもその賞味期限を感じずにはいられない。文庫化されてから比較的早く読んだのだが、それでも時間の経過を感じずにはいられない。どうしようもないことなのだろうが…。

作者はエッセイの中で、なんでもラベル化され、それによってそのものが存在してしまうと言っている。つまり、「負け組み」と報道された瞬間に、本来なら中流と思っていた人たちが、負け組みとなってしまう。それはまさにその通りで、ネットカフェ難民なんて言葉が生まれなければ、その実体があったとしても、ただのホームレスとしか認識されなかっただろう。なんでもラベル化されるこの日本で、その貼り付けられたラベルに負けない人間になれと作者は言う。まさにその通りだと思うが、自分に貼られたラベルをはがすのは相当難しい。

作者の時事問題に対するスタンスは一貫しているので、安心して楽しめる。




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