気をつけ、礼  


 2011.8.6  教師だって人間だ 【気をつけ、礼】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

教師に関する短編集。教師といえば、完全な人間性をもつ聖職者と思われがちだ。子供であれば、なおさら「教師というのは完璧な人間だ」というイメージがある。本作では、そんな教師であっても一人の人間であり、気に入らないことがあれば八つ当たりもするし、いじわるもする。今となっては、教師という職業に先入観をもつことはないが、教師に対して、昔はほとんど良いイメージを持たなかった。教師を美化するとういうか、感動させる流れの作品には、一歩引いた目線で見ていた。本作は教師の悪い部分も描きつつ、それに苦悩する教師自身の心の中も描いている。誰もがイメージする良い先生ではない。ただ、だからこそ感じる人間くささが本作には溢れている。

■ストーリー

僕は、あの頃の先生より歳をとった―それでも、先生はずっと、僕の先生だった。受験の役には立たなかったし、何かを教わったんだということにさえ、若いうちは気づかなかった。オトナになってからわかった…画家になる夢に破れた美術教師、ニール・ヤングを教えてくれた物理の先生、怖いけど本当は優しい保健室のおばちゃん。教師と教え子との、懐かしく、ちょっと寂しく、決して失われない物語。時が流れること、生きていくことの切なさを、やさしく包みこむ全六篇。

■感想
子供のころの教師というのは、近寄りがたく怖いが完璧な大人というイメージだった。そうではないというのは、早い段階でわかった。社会にでると、なおさら教師というのはちょっとおかしな人間もいるのだなぁと思うこともあった。ドラマなどでよくある熱血教師のたぐいは、イメージしやすい。作者の別の作品に登場する、信じられないほどすばらしい教師もイメージしやすい。ただ、本作のように、生徒のことを理由もなしに嫌う教師というのは、初めてのパターンだ。生理的に嫌悪し、そのことを思い出し苦悩する。教師も人間なのだと感じさせる場面だ。

自分の年齢と、自分が子供のころの教師の年齢を考えるときがある。そうなると、本作に描かれている心境がよくわかる。あの年齢で、子供たちにどう思われ、どんな対応をしてきたのか。教師といえども、人間的に未熟なものは未熟であり、若くてもすばらしい人はすばらしい。当たり前のように描いていた、教師のあるべき姿というのは、ただの幻想でしかないとわかった。本作のように、どこかに欠陥があったとしても、子供がどう感じるかが重要なのだろう。思わず、自分が子供のころの教師を頭の中に思い浮かべてしまった。

教師を知らない人はいないだろう。誰もが必ず一度は関わりあう相手だ。無条件に完璧だと思っていたあのころ。自分が大人になったからこそわかる現実。教師が事件を起こすと、ことさら大きく報道されるのは、そのイメージのせいだろう。金を持ち逃げしたり、教え子の死を何度も経験したり、教師にも様々なタイプがある。自分では絶対にできない職業だと思う反面。「白髪のニール」などを読むと、先生を尊敬できるし、またそんな先生になってみたい気もする。自分では到底無理だろうが、憧れる先生像というのがそこにはあった。

先生も人間だということを、シミジミと感じさせる作品だ。




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