季節風 春  


 2011.1.18  春には新生活の悩みがある 【季節風 春】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

季節がら暖かな印象を与える短編集。ほんわかとした短編なのはもちろんのこと、春は出会いと別れの季節ではあるが、本作では新生活における苦悩を扱った作品が多い。様々な理由から新しい生活になじめず自分を卑下したり、心を閉ざしたりもする。しかし、春らしいちょっとしたきっかけから心を開き一歩前進していく。最後には前向きな流れになっているのが本作の短編の特徴かもしれない。全体を通して作者の境遇がそうだからだろうか、田舎に残した両親を心配し東京に住む男という描写が多い。この状況がモロに自分にあてはまってしまうので、他人事ではない感覚で読んでしまった。人によっては非常に何かを考えさせられる作品になるかもしれない。

■ストーリー

古いひな人形が、記憶の中の春とともに、母の面影を思い起こさせる「めぐりびな」、子どもが生まれたばかりの共働きの若い夫婦が直面した葛藤と、その後の日々を鮮やかに描き出した「ツバメ記念日」など、美しい四季と移りゆくひとの心をテーマにした短篇集「季節風」シリーズの春物語。旅立ちとめぐり合いの12篇を収録。

■感想
いくつかの短編の中で印象に残っているのは「お兄ちゃんの帰郷」だ。進学のため東京で一人暮らししていた兄が突然逃げ帰ってくる。何でも好きなことをしろという父親をよそに田舎に戻りたがる兄。逃げ帰った兄というのは感慨深い。別に自分が都会から田舎に逃げ帰ったわけではないが、気持ちはわからなくもない。ただ、逃げ帰った先で暖かく迎えられながらも、両親の気持ちを考えるとなんだかやりきれない気持ちになる。戻るも地獄なら進むも地獄。ラストには吹っ切れた兄の姿が描かれているのがせめてもの救いかもしれない。

「めぐりびな」などは、幼いころの貧乏な境遇を思い出しながら、成長し親となったときに初めて親の気持ちがわかるという、なんともせつないお話だ。本作を読んでいると、瞬間的に自分はどうだったのかと思い出そうとしてしまう。子供のころ五月人形が家にあっただとか、鯉のぼりがあっただとか…。おそらく本作の短編の中のどれかには、心揺さぶられる何かがあるだろう。自分が親になり、子供にどのような態度を示すのか。自分の過去を含めて将来のことをぼんやりと考えてしまった。

作者の境遇と自分は似ているのだろう。地元も同じなので方言にはなじみがある。そして、都会で生活し田舎で両親が暮らしているというのもそのままだ。そのため、作者の描く状況にはとことん当てはまってしまう。進学のため初めての一人暮らしで親と連絡をとらない「ジーコロ」であっても、ピンポイントにそのころの心境を描いている。まさにそのまま、もしかしたら隠れて自分のことを見ていたのではないかと思わせるほどリアルだ。それ以外にも田舎に残した両親関係の話は、考えさせられるものがある。

同郷というだけで、作者の作品には妙な思いがわいてくる。




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