季節風 秋  


 2011.3.31  お父さん世代にはガツンとくる 【季節風 秋】

                      評価:3
重松清ランキング

■ヒトコト感想

相変わらず、お父さん世代にはガツンとくる短編が盛りだくさんだ。秋は季語として存在しているだけで、秋がそれほど物語に重要な意味を持っているわけではない。遠く離れた場所で生活する年老いた親のことや、難しい年頃になった娘との関係。はたまた、色気づいた小学生が感じることなど、主人公は様々だがお父さん世代にはかなり心に響くだろう。おそらく二十代前半に読んでも特別な印象はないだろう。親となり、子を持ち、田舎に残した両親のことを心配する年代になれば、かならず考えさせられる何かがある。他の季節風シリーズと比べると、どこか悲しげな作品が多いかもしれない。特に表題作は、離婚が決まった両親との最後の食事をする子供という、なんともやりきれないシチュエーションだ。

■ストーリー

静かな、静かな、ひとりぼっちの月。ぼくたちは明日から、もう家族じゃない。澄んだ光に満ちた秋が、かけがえのない時間を連れてくるものがたりの歳時記―「秋」の巻

■感想
最も印象に残っているのは表題作である「少しだけ欠けた月」だ。親が離婚を決めたこと、そして、子供ははっきりとその事実を理解していること。最後にレストランで食事をするその場の雰囲気さえも、子供にはすべて理解できている。何も気付かず子供の前だけ仲の良い夫婦を演じようとしても、無駄だ。そんな子供の悲しく切ない思いが胸に響いてくる。ここまで切ない思いを子供にさせるのは辛すぎる。子供のころに冗談で「離婚したらお父さんとお母さんどっちについていく?」なんてことを聞かれ、強烈に悲しかったことを思い出した。

その他には、田舎に残した両親のことをテーマとした「風速四十米」や「キンモクセイ」などが印象に残っている。まだ遠い先のことだが、いづれ自分にもふりかかってくる悩みだろう。作者の作品が強烈に心に響くのは、田舎が同じだということがある。年老いた両親が方言交じりに言葉をつむぐ。それを読んでいるだけで、まるで自分の両親に言われているようで、なんともいえない複雑な気持ちになった。将来的にどうなるかわからないが、作者の作品を読むと、どうしても先のことだが考えずにはいられなくなってくる。

「田中さんの休日」という作品も、はるか先のことだが、もしかしたら自分も、という気持ちで読んでしまった。高校生の娘とどうやって接してよいのかわからない田中さん。まさしく自分はそうなりそうだと思った。読んでいると当てはまることばかりだった。高校生にもなって親と出かけるというのはどうなのだろうか?義理で付き合っているのではないだろうか。余計なことを考えすぎるあまり、自然と娘との距離が開いてしまう。理解ある父親を演じようとすればするほど、不自然になってしまうのだろう。

シリーズの中では、ひときわ切ない作品が多いように感じられた。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp