2011.9.21 夏のイメージを逆手にとる 【季節風 夏】
評価:3
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■ヒトコト感想
季節風シリーズの中では一番かもしれない。夏というくくりに縛られるのではなく、物語の設定が今の自分にとって強く心に残る。夏というと暑苦しく、ギラギラとしたはじけるパワーをイメージするが、本作の物語は夏の風物詩をもちいてはいるが、夏とは対極にあるようなしんみりとした寂しさや、逃れようのない終わりを描いている。中には夏らしく、少年と冒険をテーマにしたものもあるが、印象に残っているのは寂しい気持ちだ。夏のイベントにからめた物語もあるが、それらも終わりを連想させるものばかり。はじけるような夏や、照りつける太陽の下での活動というのは少ない。夏のイメージを逆手にとった物語の意外な流れと、心に染み入る設定にやられてしまった。
■ストーリー
転校が決まった“相棒”と自転車で海へ向かう少年たちの冒険「僕たちのミシシッピ・リバー」、野球部最後の試合でラストバッターになった輝夫と、引退後も練習に出続ける控え選手だった渡瀬、二人の夏「終わりの後の始まりの前に」など一瞬の鼓動を感じさせる「季節風」シリーズの「夏」物語。まぶしい季節に人を想う12篇を収録。
■感想
冒頭からかなりやられてしまった。特に「あじさい、揺れて」では意外なシチュエーションというか、なかなか考えつかない状況を描いている。死んだ兄の奥さんが再婚する。その瞬間、孫と奥さんは親戚ではなくなってしまう。普通に考えれば、ありえない状況ではない。ただ、その状況を真剣に考えると、いろいろと問題がある。思わず自分に置きかえて考えてしまった。もし、自分が死んだら。うちの親との関係はどうなるのか。再婚したら…。家族と兄弟の関係を、たてまえを抜きにどう思うかが描かれている。確かに微妙な状況だけに思わずのめりこんでしまった。
「ささのはさらさら」や「たかし丸」はそれぞれ父親の死に関する物語となっている。どちらも夏というイメージはない。しかし、時期が夏だと、ギラギラとした夏がこうも悲しみを増幅させるのかと驚いてしまう。数々のイベントや、思い出などは夏が多い。その思い出を思い出としていつまでも心に残すのか、それとも新たな思い出を新しい環境で作りだすのか。親に早くに先立たれた子の思いというのは、子を持つ親にとっては、強烈に心に響く。この手の話に弱くなったのは、子供を持つようになったからかもしれない。
「僕たちのミシシッピ・リバー」はこれぞ夏という感じの冒険物語だ。見知らぬ場所へ子供たちだけで出発する。夏にはつきものの、突然の雨や海など冒険の要素はつまっている。冒険する理由も、転校する友達との最後の思い出作りという、なんとも寂しさを誘発させる設定だ。冒険というのは春でも秋でも冬でもなく夏にやるものだ。子供のころに経験した、知らない場所へ、親に内緒で行くというドキドキ感までもしっかりと表現されている。しんみりとした物語ばかりでなく、本作のようなさわやかさがあってこそ夏なのだろう。
季節風シリーズでは一番好きかもしない。
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