禁断の魔術 ガリレオ8  


 2013.8.9     ガリレオシリーズナンバー1短編集 【禁断の魔術 ガリレオ8】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ガリレオシリーズの短編集の中では、間違いなくナンバー1だ。ガリレオと言えば、不可解な現象を科学で説明するのがメインだ。それは不可能殺人事件の解決へとつながっていく。このパターンは王道なのかもしれないが、本作はその王道から少しはずれた、加害者や被害者の心の内を描いた短編がすばらしい。

科学でずばり解決!なんてパターンを期待した人は少しがっかりするかもしれない。ガリレオシリーズの長編作品にも似た、人の心をメインに描いた作品は、やはり心に響く。中でも「猛射つ」は、強烈なインパクトを残している。どことなく「真夏の方程式」のように、湯川と青年の関係が奇妙な感動を引き起こす良作だ。

■ストーリー

『虚像の道化師 ガリレオ7』を書き終えた時点で、今後ガリレオの短編を書くことはもうない、ラストを飾るにふさわしい出来映えだ、と思っていた著者が、「小説の神様というやつは、私が想像していた以上に気まぐれのようです。そのことをたっぷりと思い知らされた結果が、『禁断の魔術』ということになります」と語る最新刊。「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4編収録。ガリレオ短編の最高峰登場。

■感想
科学で不思議な事象を解明するのがガリレオの魅力だ。本短編集でも、その魅力は衰えることがない。本作ではさらに、被害者や加害者の心の奥底にある思いを、これでもかと表現している。そして、相対する湯川もそのことを十分に理解し、事件にあたる。単純に不可解な出来事を科学で解明するだけでは限界がある。

本作のように、科学はほんのオマケにすぎず、湯川というキャラクターが被害者や加害者と接することにより、今まで知ることのできなかった湯川の本性があらわになったような気がした。湯川が感じる思いというのは、読者も共感し、そして感動してしまう。

「透視す」は、透視を湯川が解明する話なのだが、透視のトリックについてはあまり大きな衝撃はない。やはりこの短編も、被害者と義理の母親との関係が大きなカギとなる。すぐれたミステリーらしく、犯人は思いもよらない人物だ。

被害者が相手の真理を逆手にとるような行動をとらなければ、事件は起きなかったかもしれない。なんとも悲しい物語だ。湯川が被害者に対して、瞬時に透視のトリックをあばきつつ、なおかつ本当に透視の能力があるのでは?と思わせるあたりはさすがとしか言いようがない。

「猛射つ」は、まさに湯川と青年の心の交流物語だ。湯川が出会った将来有望な青年。彼の姉が不審な死をとげ、復讐に燃える青年。湯川は彼を信じ、助けようとするのだが…。湯川の相手を信じる心というのにしびれてしまう。

湯川と青年がどのような交流をもち、どういった関係なのか、本作を読むことで、あの気難しい湯川がこれほど心を開く相手がいるのかと驚いてしまう。事件の流れとしても、優秀な青年の罠にはめられ右往左往する警察たちと、青年の考えを先読みし行動する湯川。長編としても成り立つような濃密ですばらしい物語だ。

ガリレオシリーズの短編集の中では間違いなくナンバー1だ。




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