きみ去りしのち  


 2012.12.20    子を持つ親は苦しくなる 【きみ去りしのち】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

幼い子どもを失った父親の物語。すぐさま、自分の子どものことを考えてしまった。子を持つ親ならば、かなり心に響く。子どもを失った後、心にぽっかりと空いた穴を埋めるため旅にでる。正直、自分が子どもを持つ立場にならなければ、これほど本作が心に突き刺さることはなかっただろう。1歳ならば、まだそれほど思い出がないので、立ち直りやすいのでは?なんていう思いがあった。それは、独り身の考え方で、子どもを持つと、その考えが間違いだとすぐに気付く。子どもを失った瞬間から、妻との関係もギクシャクしだす。すべてを吹っ切るには、同じ環境にいる限り難しいのだろう。セキネに別れた妻があり、明日香という離れて暮らす子どもがいることに、物語として大きな変化が生じてくる。

■ストーリー

どれだけ歩きつづければ、別れを受け容れられるのだろう。幼い息子を喪った父、“その日”を前にした母に寄り添う少女。―生と死がこだまする、ふたりの巡礼の旅。再生への祈りをこめて描かれた傑作長編小説。

■感想
1歳を迎えたばかりの子どもが突然死する。原因不明で、誰の責任でもない。ただ、残された親たちは、自分を責め続ける。その夜から始まる、セキネの懺悔というか、立ち直るための旅が物語りとして描かれている。旅のお供として、別れた妻に引き取られた明日香が登場する。単純に、子どもを失ったことだけを後悔するのではなく、別れた妻と、複雑な関係になる明日香と旅することが、立ち直りのきっかけとなる。明確にだれかの励ましの言葉や、同じ経験をした人の行動に感化され立ち直るのではない。旅先で出会う人々のエピソードを少しづつ吸収し、立ち直りのちょっとしたきっかけとしている。

子どもを失い、現在の妻との関係がギクシャクしだす。何をするにも夫婦として生活し続ける限り、死んだ子供のことを思い出す。こうなると、もはや離婚するしかない。この気持ちは非常によくわかる。辛い経験を思い出したくなければ、思い出すきっかけを消していくしかない。そのさいたるものとして、配偶者の存在がある。責任がはっきりしていれば、責任転嫁できる。それができないとなると、お互いに自分と相手を責め続けるしかない。同じ空気を吸うだけで、辛くなる。そんな状況かもしれない。

セキネは結局のところ立ち直る。人はどんなに辛い経験をしたとしても、時間が解決してくれる。本作を読み、セキネに感情移入することはない。ただ、セキネと妻が思い出す、子どもの死んだ瞬間というのは、何回読んでも自分の環境に置き換え、その瞬間に心臓の鼓動が早くなる。自分の子どもがそうなったとしたら…。なんてことを考えるだけで、目頭が熱くなる。もともとテーマが、子を持つ親にとっては強烈なものなので、心に深いインパクトを残してしまう。ただ、セキネの立ち直る過程というのをほとんど覚えていないのは、不思議だ。

子を持つ親。特に子どもが小さい親ならば、瞬間的に苦しくなる場面が多々あるだろう。




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