仮面の女  


 2012.7.9   キラリと光る短編がある 【仮面の女】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者らしい短編集だ。バラエティに富んだ短編集で、印象深い作品も様々なジャンルに渡っている。一般的には、一番インパクトのある作品が表題になるのだが、本作の場合にはそれは当てはまらない。女性の裏の顔を暴露するような作品で、興味深いが、よりインパクトのある作品は他にある。全体を通して、女性とのベッドシーンがよく登場してくるのだが、その表現方法がほとんど同じような気がした。短編として雑誌に連載されるのであれば、問題ないかもしれないが、連続して読むと、同じ表現が続くようで、手抜きに感じられてしまう。作者はこの手の表現が好きなのだろうが、ワンパターンだとさすがに飽きがきてしまう。

■ストーリー

国道沿いにあるコーヒー店。店の名前は絵里花。落ち着いた雰囲気だし、何よりもコーヒーが旨いので、店告代理店の編集部員をしている木原は、週に三度はこの店に通ってくる。木原はそこで、お坊ちゃん育ちの貝崎夫妻と知り合った。だが木原は、その美しい夫人と前に一度だけ会ったことがあった…。女性はいろいな顔を持っている。恋人の前、知人の前、他人の前で様様な役を演じている。仮面の下に隠された女の小さな秘密とは

■感想
「父殺しのパラドックス」は、最近タイムパラドクスものとして伊坂幸太郎の「PK」を読んだ。現代の作家の代表的な伊坂幸太郎の作品と比べると、作者の作品は新しさは当然ないのだが、シンプルで別の面白さがある。PKはタイムパラドクスの新しい理論と、仕掛けの面白さがポイントだが、作者の作品は、読者を引っ掛けるような楽しさがある。子供が過去へ戻り、父親を殺した場合、子供の存在はどうなるのか。何か面白い仕掛けを期待したが、作者は別の解で、物語としての面白さを構築している。

「裏切りの遁走曲(フーガ)」はまさしくコンゲームだ。騙していると思っていた男が、実は騙されていた。騙し騙されの連続で、最後にどうなるのか…。短編ということで、複雑な構成にはできない。それでも、騙す方と騙される方をたくみに入れ替えるあたりはすばらしい。壮大などんでん返しがあるわけではない。予想外の答えを示されたことと、短編にもかかわらず、物語にずっぽりと入り込むことができたのは、作者の筆力のなせる業だろう。

「その遺産を探せ」は、恐怖感もあるが、ラストにいたるまでの物語が面白い。足が不自由で顔に大きな火傷をおった資産家の娘。娘と結婚した男は娘が相続した資産をかすめとろうとするのだが…。オチを含めて、なんてことない作品かもしれない。不憫な娘の未来を心配する父親の最後の仕掛けなのだが、物語全体から、陰鬱な雰囲気を感じてしまう。そして、ラストの場面では、頭の中で想像すると恐ろしくなる。閉所恐怖症の人は、間違いなくとり肌がたつだろう。

シンプルの中に、キラリと光る面白さがある。




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