2012.7.4 何かが起こっている、という雰囲気 【PK】
評価:3
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■ヒトコト感想
作者らしい中編集。何かが起こっているのだが、その原因がわからない。特殊能力的なモノを扱うと、この雰囲気となるのだろう。もともとは独立した作品を、出版時に手直ししたらしく、それぞれの中編に繋がりのようなものが見えてくる。あの時のあの人が、実はこの人だった、なんてことは、物語の繋がりを印象付けるのと、何か意味ありげな雰囲気を作り上げている。ただ、繋がりが絶対的に必要かというと、微妙かもしれない。過去、現在、未来と時間軸としては流れてはいるが、物語としての統一感はあまり感じない。どことなく「魔王」のような雰囲気があるが、明確なテーマは魔王ほど見えてこない。特殊な力を持った者たちが何かを成し遂げる、なんてテーマは作者が最も得意とするところだろう。
■ストーリー
その決断が未来を変える。連鎖して、三つの世界を変動させる。こだわりとたくらみに満ちた三中篇を貫く、伊坂幸太郎が見ている未来とは―。未来三部作。
■感想
「PK」はサッカーワールドカップで小津がPKを決めるという部分の謎からスタートする。ごく当たり前の現象を、さも特殊なことのように語る本作。そこには何か裏があるような雰囲気をかもし出しつつ、別の登場人物の視点で、カラクリが語られる。まさしく、あの時のあの人が、実はこの人だった。なんてオチが後からわかる。となると、なんだか壮大な物語のような気がしてくる。序盤に何かを暗示するような、印象的な言葉が続き、それがラストのオチに繋がる。作者の作品の流れとしては、安心して楽しめるパターンだ。
「超人」は特殊な能力を持つ男がメインの話だが、これまた「PK」のエピソードと繋がっている。あの時のあの子供が実は…。メールに未来を予言するようなことが書かれており、それを防ぐために男は…。未来の惨劇を防ぐために、まだ犯罪を犯していない人を排除するのは正しいのか。悪だとか善だとかいうものを超えた、人間味はないが、やけに淡々と行動を起こす登場人物たちには、相変わらず魂を感じない。これが作者の描くキャラの特徴かもしれないが、ドロドロした恨みや嫉みがないので、どんな強烈な出来事もやけにあっさり味に感じてしまう。
ラストの「密使」だけは、上記二つとは少しおもむきが異なる。未来を守るために、過去を修正する。タイムパラドクス物といえるのかもしれない。作者独自のタイムパラドクスの解釈が描かれ、その結果、過去に戻り未来を変える方法に説得力をもたせている。未来の危機を救うためになんてのは、ありきたりかもしれない。現実のタイムトラベラーと思われているジョン・タイターのエピソードに似ているような気もするが、変な面白さがある。シリアスな展開になりがちな物語を、作者のキャラクターでは、深刻さをそれほど感じさせない。ワンパターンかもしれないが、このキャラがすでに作者のブランドとみなされているので、良いのだろう。
作者らしいサラリと読み終わる中編集だ。
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