2013.2.27 中国嫌いのバイアスが… 【加油(ジャアヨウ)-五輪の街から-】
評価:3
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■ヒトコト感想
重松清が北京五輪開催中の中国を訪れる。タイトルの加油は”がんばれ”という意味らしい。タイトルからすると、北京五輪観戦記かと思いきやそうではない。根底にあるのは、中国国家のとんでもなく独裁的な部分への強い批判だ。それは、国家に騙されつづける中国の若者たちに向かっている。オリンピックを観戦するために中国へ来たはずが、各地で出会う中国の若者、特にエリートたちに対して厳しい言葉を投げかける。当然、似たような境遇の通訳にも同じスタンスだ。国家に情報統制され、満足に情報が得られず自分たちの国を誤解して理解する中国の若者たちに、作者独自の切り口で怒りをぶつける。ものすごく規模の大きいおやじの愚痴に聞こえなくもないところが、作者らしい。
■ストーリー
五輪開催の一年前から取材を重ねた作家の目をとおして見えてくる、生まれ変わろうとする北京、そして中国のもうひとつの姿。四川大地震の被災地から、2010年に万博が開かれる上海まで。国家が演出した「素晴らしき北京五輪」の隙間から覗いた、それぞれの今を生きるフツーの人々の物語。
■感想
オリンピック開催にわく中国。そのとき、中国を訪れた作者は国民たちと接しどう感じたのか。五輪前の中国へ行ったことのある自分としては、作者の言いたいことはよくわかる。空港やその他の公共機関の職員たちの態度が横暴だとか、北京の大通りから見えるところだけが綺麗で、まるで映画のセットのように裏はめちゃくちゃだとか。中国のとんでもなさは、わりと理解しているつもりだが、本作のトーンというのは、あまりに辛辣ではないかと思う。特に、中国の若者に対する強烈なまでの偏見というか「国家に騙されている」という先入観が強烈な悪意となっているようにすら思えてくる。
作者の中国批判は、中国のオリンピックを成功させようとして、外面ばかり取り繕うことに嫌気がさしているように感じた。ただ、そんなことは日本でもどこでもあることで、作者の中国の若者に対する愚痴というのは、そのまま日本の若者に対する愚痴のようにも感じられた。中国の普通の人々にインタビューして、というスタンスのようだが、突然日本人からインタビューされ、日中問題の微妙な部分を聞かれると、誰でも嫌な気分になるだろう。そのあたり、作者は理解しつつも、批判を緩めるつもりはないようだ。
本作が中国の生の姿を表現しているとは思わないが、ある意味正しいのだろう。若干中国嫌いのバイアスがかかっているが、中国はこんなところだよ、と旅行前に頭に入れておくのは良いかもしれない。ホテルがとんでもないというのは、よくわかる。タクシーの運転手が適当だというのもよくわかる。が、普通の人々の物語としては、ちょっと極端すぎるように感じた。中国国家の、オリンピックを成功させようという演出に、嫌悪感をおぼえることはない。日本も多かれ少なかれ、似たようなことをやっているはずだからだ。
作者の中国の若者嫌いは、ちょっとやりすぎのような気がした。
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