出雲伝説7/8の殺人  


 2012.10.13    王道なトラベルミステリー 【出雲伝説7/8の殺人】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

吉敷シリーズとして、正統な時刻表トリックという感じだ。山陰地方のローカル線に乗せられたバラバラ死体。元はひとつの体であったはずのものが、どのようにして別々のローカル線に乗せられたのか。お決まりどおり、それぞれのローカル線にバラバラ死体を乗せることが可能な路線を探すことから始まる。このあたりは、時刻表と駅のホームを詳細に調査し、結果としてわずかなすれ違いの時間に乗せることが可能かどうかの検証が入る。メインはこの時刻表の絡みと、出雲伝説をベースとした女たちの熱き戦いだろう。相変わらず吉敷は時刻表を手放さない。何かあると、すぐに時刻表をパラパラとめくる。時刻表トリックが好きな人にはたまらない作品だろう。

■ストーリー

山陰地方を走る6つのローカル線と大阪駅に、流れ着いた女性のバラバラ死体!なぜか首はついに発見されなかった。捜査の結果、殺された女は死亡推定時刻に「出雲1号」に乗車していたらしい。休暇で故郷に帰っていた捜査一課の吉敷竹史は、偶然にもこの狂気の犯罪の渦中に…。

■感想
殺されたと思われる女と殺したと思われる女。ふたりがどこで出会い、その死体は誰がどのようにして処理したのか。まず結果があり、その結果に当てはめるために吉敷は知恵を絞る。ある程度の想定で吉敷は動きだす。今回も、決め打ちで犯人を導き出している。わりと早い段階で犯人候補が登場し、いかにも自分は無実だと声高に叫ぶあたり、怪しさは高まる。誰が犯人かということを突き止めるための、時刻表トリックの解明と、犯人のアリバイ崩しがあり本作はそれらがメインだが、結果として大きな驚きはない。

本作では出雲伝説が鍵となっている。古事記の研究者である女ふたりの因縁物語でもある。研究者という存在が、お互いをライバル視する理由や、自分の研究を否定されたときの怒りなど、特殊な環境下での嫉妬を描いている。時刻表トリックというと、そこまで労力をかけ、ある意味運を天に任せるような犯行というイメージがある。そんな犯行を意地でも実行しようとする動機としては、納得できるものだ。バラバラな死体がローカル線によって様々な駅に運ばれていく。その不気味さと、殺されたと思わしき女が、直前まで寝台車で寝ていたという証言は、なんだか想像するとうすら寒いものを感じてしまう。

バラバラ殺人ということで、作者のデビュー作である「占星術殺人事件」とかぶる部分がある。ただ、トリックの斬新さはかなわないまでも、恐ろしい雰囲気と、鮮やかな時刻表トリックというのは本作の面白さだ。犯行を実現できる可能性のある、ただひとつの寝台列車。犯人と思わしき女は、その前に別の車両で東京を出発していた。どこで死体を受け渡したのか。はたまた、女は歩いて別の寝台列車に移動したのか。オチがわかれば、なんてことないのかもしれないが、山陰地方の列車事情に詳しい人は、身近にあるものがトリックとして使われた楽しさはあるだろう。

トラベルミステリーとして、王道の楽しさがある。




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