いとま申して-「童話」の人びと-  


 2012.5.24   大正時代の同人活動 【いとま申して-「童話」の人びと-】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者の父親の日記から、その当時を物語として作り上げている。まず驚いたのは、作者の父親が創作活動に活発で、同人誌にまで参加していたということだ。父親の日記から、当時どのような生活をし、どのような仲間と創作活動を続けていたのか。何十年も前のことを、息子が日記から掘り起こすというのは、父親からすると、どのような心境なのだろうか。「童話」という雑誌に、素人として投稿していた中には、金子みすずなどの有名人もいたらしい。作者のように父親の日記から、過去を探るため、様々な資料を調査し、結果として父親の創作物を読むことができるというのは、幸せなことなのだろう。父親の夢を引きつぐ形になった息子の思いというのが、本作に表現されているようだ。

■ストーリー

若者たちの思いが集められた雑誌「童話」には、金子みすゞ、淀川長治と並んで父の名が記されていた―。創作と投稿に夢を追う昭和の青春 父の遺した日記が語る“時代”の物語。

■感想
自分の父親の日記を読むと、そこには過去の有名人たちと共に、「童話」という雑誌に投稿していた父親の姿がある。そんなことを知らされると、誰もが気になってしまうだろう。作者は、気になりついでに綿密な調査をし、当時の状況と、父親がどのような青春時代をすごしたかを描いている。多少の脚色はあるにしても、大正から昭和へ時代の移り変わりや、その時代にしては恵まれた生活環境などが、強烈に伝わってきた。作者の父親は、食うにも困る学生がいるなかで、同人活動を続けられるというのは、幸せな青春時代をすごした証拠だろう。

本作を読み驚くのは、有名人たちが青春をささげていた同人誌に作者の父親も参加していたということだ。それだけでなく、大学で師事した教授も、相当な有名人らしい。良くわからないが、父親の日記に登場した断片から調査し、その人物が書いた本を読むというのは、かなり偶然の要素があるにせよ、やはり当時としては周りがアカデミックな環境だったからだろう。品川などでフラリと喫茶店に入りお茶するなんてのは、今では当たり前のことだが、当時としては上流階級しかできないことではないのだろうか。

慶応に入学し、授業に困惑しながらも、楽しい青春時代を送る作者の父親。結核で兄たちが次々と他界していくあたりは、時代を感じさせる部分だ。完全なる創作ではないために、ドラマチックな展開があるわけではない。ただ、日記から構築された世界というのは、言いようのないリアルさがある。折口信夫との出会いがあったとしても、金子みすずと同じ同人に参加していたとしても、物書きになれるわけではない。最終的に教師という職業につくあたり、まさに真実を表しているのだろう。

創作ではないリアルさを、ところどころに感じることができる。




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