インシテミル  


 2013.10.15     疑心暗鬼の物語 【インシテミル】

                      評価:3
■ヒトコト感想
先に本作を原作とした映画を見てしまったために、なんとなく内容は想像できた。映画は映像的なインパクトはあるのだが、逆にその映像がチープに感じられる場面が多々あった。本作では、映像よりも、よりミステリーに力を入れているように感じられた。誰が最初に殺したのか、疑心暗鬼を巧みに利用し、どのような行動をとれば自分への賃金が増えるのか。

参加者それぞれに隠された武器が与えられ、お互い相手がどんな武器を持っているのかわからない。そのことが、より他人に対する疑いの気持ちを増幅させている。とんでもないルールの中で、生還すれば大金が手に入る。そして、途中で辞退することはできない。この恐怖の状況というのは、耐えられるものではない。その重圧に耐えることができたものだけが、手に入れられるべき大金だ。

■ストーリー

「ある人文科学的実験の被験者」になるだけで時給十一万二千円がもらえるという破格の仕事に応募した十二人の男女。とある施設に閉じ込められた彼らは、実験の内容を知り驚愕する。それはより多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームだった―。

■感想
目的やテーマが見えない実験というのは恐ろしい。特に非日常の中に放り込まれ、目的を知らされないまま、赤の他人と生活する。時給11万の実験はまともなはずがない。それを知りつつ参加する者たちは、やはりどこか頭がいかれているのだろう。

実験が始まると、ルールによる制限と駆け引きが始まる。やはりポイントなのは、最初の犠牲者の存在だろう。いったい誰が何のために?というのをぼやかしながら、危険な香りを残しつつ物語はすすんでいく。読者は、誰か黒幕がいるのではないかと考えずにはいられない。

中盤になると、それぞれが持つ武器の存在と、そこに隠された意味が少しずつわかってくる。毒殺や撲殺など、ミステリーにちなんだ武器が登場してくる。このあたり、ミステリーのコアなファンならば楽しめるだろう。ファンでなくとも、その武器の持つ意味を考えながら読むことで、ミステリアス感を楽しむことができる。

密閉された空間で、殺人者が必ず存在するとわかっていながら、鍵のかからない部屋で一晩ひとりで過ごさなければならない。極限状態にさらされた人はどうなるのか。常人では計り知れない緊迫感がそこにはある。

ラストは映画とは多少違っている。が、主人公である結城が一連の事件の謎を解く。ありえない金額の時給から計算し、犯人を導き出す。多少強引な気もするが、納得できる結末だ。登場人物を映画のキャスティングで想像し、ガードをヘンテコなロボをイメージしてしまうのは、先に映画を見てしまったからだが、それがなければ緊迫感あふれるすばらしい疑心暗鬼の物語だ。

人は何かひとつのきっかけさえあれば、どうにでもなってしまう。他人を疑う怖さと、他人に疑われる怖さ。そして、閉鎖された空間での事件の怖さを感じずにはいられない作品だ。

疑心暗鬼というのは何より恐ろしい。




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