いのちのパレード  


 2011.9.12  摩訶不思議な短編の世界 【いのちのパレード】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

身の毛もよだつような短編もあれば、良く分からない短編もある。ファンタジーすぎてついていけないものや、世にも奇妙な物語にでてきそうな作品まで、1つのジャンルではくくれない、様々な要素が詰まった短編集だ。短編なので、余計な説明なしに、突如始まる奇妙な世界。頭の中にその世界を描ききれない場合は、なんだかおいていかれた気分になる。それでも、物語は待ってくれずどんどんと先へ進んでいく。短編作品の世界に、瞬時にのめり込むような瞬発力と、作者の発想力についていく柔軟な思考力が必要だ。それにしても、こんな摩訶不思議な世界を作れるとは、作者の頭の中がどうなっているのか気になる。常人では考えつかないような世界ばかりだ。

■ストーリー

ホラー、SF、ミステリ、ファンタジー……クレイジーで壮大なイマジネーションが跋扈する、幻惑的で摩訶不思議な作品集。

■感想
ダントツにインパクトがあるのは「夕飯は七時」だ。どうやったらこのシチュエーションを考えつくのか。とんでもない想像力を、そのまま作中の登場人物たちに植えつけたような作品だ。不思議な中にもほのぼのとした空気が漂っており、作家という職業のちょっとしたグチまでも含まれている。三兄妹の個性も秀逸で、兄弟であたふたする姿が思い浮かんでしまう。この素材を使えば、ちょっとした長編作品くらいできそうな気がした。おそらく、面白い作品になることだろう。

どちらかというとブラックな作品が多い中で「あなたの善良なる教え子より」は、強烈だ。人によって善というのが変わるのはわかるが、ここまでくると異常としか思えない。このブラックさと、なんともいえない後味は、そのまま世にも奇妙な物語に登場してもおかしくないだろう。映像的なインパクトはないが、丁寧な語り口調と、淡々と繰り返される言葉には恐怖を感じずにはいられない。人間の悪の部分に特化した人物を、違った意味で善良に描くとしたらこうなるのかもしれない。

「SUGOROKU」は、まさに恩田陸作品という感じだ。どこかの長編にも似たような雰囲気があり、いかにも作者らしい雰囲気と登場人物たちだ。本質は見えないが、ルールだからとそれに従い、双六のように生活する部屋を進んでいく。その部屋には様々な指令があり、一回休みや、ふりだしに戻るまである。そんな中、主役だけが戻ったり休みが一度もなくスムーズに進んでいく。果たしてそこにはどんな意味があるのか…。ファンタジーな雰囲気の中に、恐ろしさを連想させるキーワードがある。先の見えない、得体の知れない恐ろしさだ。

一つの短編は短く読みやすい。この世界についてこれるかどうかはあるが、世にも奇妙な物語が好きな人にはおすすめだ。




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