2012.12.4 なくした記憶の正体は 【異邦の騎士】
評価:3
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■ヒトコト感想
記憶を失った男が、断片的に記憶を思い出しつつ、驚愕の事実にぶち当たる。記憶喪失モノはいくつか読んだことがあるが、真保裕一の「奇跡の人」は印象深かった。本作は、記憶を失った状態で、幸せを築きながら、その幸せを壊して良いのかという葛藤が続く。読者は、主人公と同じように記憶を無くす前はどんな環境にいたのかを想像するしかない。怪しげな行動をみせる恋人の良子。身のまわりにうろつく男。そして、強烈な個性を持つ占い師の御手洗潔。男が記憶をとり戻す直前の状況はすさまじい。あるひとつのパターンに物語は流れていくのだが、そこからさらにどんでん返しが待っている。記憶をなくした男が、何が真実かわからなくなるように、読者もまるっきり同じ状況におちいってしまう。
■ストーリー
失われた過去の記憶が浮かび上がるにつれ、男はその断片的“事実”に戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺した男なのか?そしていま若い女との幸せな生活にしのび寄る新たな魔手。記憶喪失の男を翻弄する怪事の背景は?蟻地獄にも似た罠から男は逃げられるか?希代の名探偵・御手洗潔の最初の事件。
■感想
シリーズ的には、御手洗潔シリーズなのだが、ラストの種明かしの時のみ重要な活躍をするが、それ以外はほとんど存在感がない。物語は記憶喪失の男を中心に描かれている。記憶をなくしたとしても、幸せな生活がそこにあるのならば、その幸せな生活に安住するのも良い。ただ、記憶を無くした男が不安になるのも良く分かる。自分には妻子がいるのか?、それとも何か事件を起こしたせいで記憶を無くしたのか…。無くした記憶への渇望を抑えられない男が、どういった行動をとるのか。読者は無くした記憶への興味を抑えることができないだろう。
記憶を無くした男が、偶然から自分の過去を知ることとなる。このあたり、多少の強引さを感じるが、わずかな手がかりから自分のルーツを探る作業というのは、緊迫感にあふれている。男はどんな生活をしていたのか。何か事件を起こしたのでは…。ミステリーの定番として、大きな事件を起こし、そのショックで記憶を無くすというのがある。本作も、その流れに沿っているのかと思いきや…。記憶をとり戻し、激しい怒りや、恨みの気持ちを持った男が、凶行に動き出す。このあたりのうまさというのは、作者の筆力のなせる業だろう。
記憶をとり戻し、本来の目的を達成しようと動き出す男。しかし、そこからまだどんでん返しが待っている。まさかの展開であることは間違いない。提示された筋書きをそのまま信じてしまうと、それは作中の黒幕の仕掛けにまんまとはまったことになる。タネ明かしには、御手洗が絡むのだが、相変わらずのすべてを見通した言葉の数々だ。なぜそこまで真相を解明できるのか、という読者の疑問を、今回はそれなりに補完した描き方をされている。御手洗の結論はすべて正しいという先入観が、今回は崩れることがない。
記憶を無くした男が、記憶の断片をとり戻しつつある部分が面白さのピークだ。
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