包帯クラブ  


 2013.9.30     大切な物を守る包帯 【包帯クラブ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

高校生たちが町に包帯を巻いていく。傷ついた経験をした場所に包帯を巻くことで、心が癒される。作者の初期の作品だが、その後に人の死を悼む旅を続ける「悼む人」が描かれたことから、昔から似たような考え方を持っていたのだろう。少年少女たちが、思春期特融の思いから離れ離れになり、そして、つながっていく。

日々の生活を明るく楽しく生活している友達を見ると、憎しみがわいてくる。家が金持ちか貧乏かでハンデを背負っていると考える。まさに現実を鋭く突いていく物語なのだが、高校生たちの考え方に青臭さや痛々しさを覚えたり、これが青春なのだと思わずにはいられない。作者の原点は本作にあるのだろう。

■ストーリー

関東のはずれの町に暮らす高校生、ワラ、ディノ、タンシオ、ギモ、テンポ、リスキ…傷ついた少年少女たちは、戦わない形で、自分たちの大切なものを守ることにした…。いまの社会をいきがたいと感じているすべての人に語りかける長編小説。

■感想
傷ついた少年少女たちが、傷を守るように町中へ包帯を巻いていく。そして、他人の傷を癒すために包帯を巻く。包帯を巻くことで、傷ついた経験がなくなるわけではないが、心が軽くなる。受験や恋愛、人間関係に悩む高校生たちの、新たな自分たちを慰める手段。

集まり、そしてクラブとして活動することで、連帯感や達成感を引き起こしているのだろう。大人にはない繊細さを感じ、さらには、大人では語れない人間の嫌な部分を如実に表している作品でもある。

中学までは友達だったが、高校生となり自分の家が金持ちか、自分が進学するかしないか、それらの状況により友達関係が崩れていく。まさに社会の入り口に立たされた高校生だからこそ、社会では当たり前に存在する状況に苦心する。

自分がこれほど辛いのに、友達が隣で明るく楽しそうに話をしているのを見るとムカムカしてくる。そんな人間の自分勝手な部分が、赤裸々に描かれている。誰もが少しは共感できるだろう。自分が不遇な立場にある反面、友達が楽しそうに過ごしているのを見ると…。わからなくもない。

本作は作者の原点なのだろう。「悼む人」にも似た雰囲気がある。人を悼むことに何か意味があるのか。包帯を巻くことに意味があるのか。精神の奥底で感じられる安らぎなのか。何かをすることで気持ちが楽になることはある。

悩みを人に話すことで楽になる場合もある。本作では、それが傷ついたその場所に包帯を巻くことなのだろう。思春期の心の不安定さと、大人になりかけで、大人の気持ちも理解できるが、まだ大人になりたくないと感じる心。自分の高校時代とダブることはないのだが、共感できる部分はある。

まさに作者の原点的作品だ。




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