2012.2.21 閉鎖的な洋館でのミステリー 【訪問者】
評価:3
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■ヒトコト感想
山の中の洋館に集まる人びと。昌彦の死の真相を探りにきた井上が、怪しげな老人たちと駆け引きを繰り広げる。この手の閉鎖された空間での推理合戦は、作者の得意分野なのだろう。どことなく舞台をイメージしてしまうのも、作者がそのように仕向けているからだろう。孤児であった昌彦の父親はいったい誰なのか。「訪問者に気をつけろ」という謎の手紙の存在や、突然あらわれた謎の死体など、引き付けられる要素は多数ある。頭の中では瞬時に人間関係と利害関係を思い描くが、はっきりとした答えは見えてこない。複雑なようで非常にシンプルな作品。ラストではしっかりと今までの疑問を解決してくれるのだが、思ったよりもライトな終わり方なので、中盤までの重厚な雰囲気と比べると、肩透かしを食らったような感じだ。
■ストーリー
山中にひっそりとたたずむ古い洋館―。三年前、近くの湖で不審死を遂げた実業家朝霞千沙子が建てたその館に、朝霞家の一族が集まっていた。千沙子に育てられた映画監督峠昌彦が急死したためであった。晩餐の席で昌彦の遺言が公開される。「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」孤児だったはずの昌彦の実父がこの中にいる?一同に疑惑が芽生える中、闇を切り裂く悲鳴が!冬雷の鳴る屋外で見知らぬ男の死体が発見される。数日前、館には「訪問者に気を付けろ」という不気味な警告文が届いていた…。
■感想
閉鎖された洋館で、昌彦の死の真相を探る。突然の参加者あり、謎の死体ありと、ミステリーとしての舞台はそろっている。あとは、これらの素材がどのように活かされるのか…。まず最初に考えるのは、物語として父親探しがメインなのか、それとも死の真相を探りたいのかということだった。登場人物たちの複雑な人間関係と、資産家の家系だけに、遺産がらみの何かがあるのではと勝手に想像してしまう。この手の作品の定番として、お手伝いさんや、謎めいた子供の存在などもある。これほどオーソドックスな雰囲気の作品は、作者にしてはめずらしい。
「訪問者には気をつけろ」という警告文が登場したあたりから、何か裏があると感じた。その通りの流れになるのだが、ある意味コンゲームに近いかもしれない。この閉鎖された空間で、誰が犯人なのかという、犯人探しに終始してしまうが、実は物語の本質は別のところにある。最後の訪問者たる小野寺が登場してきたあたりから、劇的な展開となる。物語としてほぼ洋館の中での推理合戦なので、ダイナミックさはない。そのかわり、ひりつくような言葉の応酬と、揚げ足取りとも思えるやりとりがある。
終わってみれば、定番すぎる流れかもしれない。舞台として上演しても十分成立しそうなほど、こじんまりとはしているが、メリハリが利いている。ミステリーとして驚くようなトリックがあるわけではなく、スケールが小さいので、物足りなく感じる人もいるかもしれない。頭の中で舞台俳優たちが、それぞれの個性をはっきし演じているのを思い浮かべると、すんなり楽しめるかもしれない。大掛かりさよりもコンパクトさを求め、読者を驚かせるというよりも、物語に不自然さがないように細心の注意をはらった作品のようだ。
ミステリー好きにはたまらない設定だろう。
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