光る鶴  


 2013.7.7      冤罪事件解決がライフワーク 【光る鶴】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

吉敷シリーズ。警部へと出世した吉敷が、過去の冤罪事件を解決しようと奔走する。そのほか、吉敷が刑事になろうと決めたきっかけなど、バラエティに富んでいる。作者の作品では、何十年も過去の冤罪事件を掘り起し、死刑囚を救おうとする物語が多い。「涙流れるままに」や、表題先でもある「光る鶴」がそうだ。

なぜ証拠も消滅した可能性のあるような大昔の事件を掘り起こすのか。それは作者がプライベートで過去の冤罪事件に注目していたからだった。本作のあとがきからわかったことだが、過去の事件の捜査というのは、リアルタイムの事件よりも、こじつけ感を強く感じてしまう。吉敷の綿密な捜査によって解決する事件は、過去も現在も関係ないのだろう。

■ストーリー

捜査一課の吉敷竹史は、知人の葬儀で九州・久留米市へ。そこで出会った青年から、義父の再審への協力を頼まれる。二十六年前、三人の女性を殺して死刑判決を受けた「昭島事件」。すでに人の記憶は風化しており、冤罪事件を覆す証拠は見つかるのか(「光る鶴」)。―吉敷竹史は、なぜ刑事になったのか

■感想
表題作である「光る鶴」は、まさに吉敷シリーズの真骨頂ともいえる作品だ。二十六年前の事件を捜査する。普通に考えれば誰もが諦める状況を、しつこく調査し続ける。強烈なのは、物語が佳境に入り、事件の真相が明らかとなる場面における、強引に筋道をたてる手法だ。

おそらく、普通に考えると、いくら論理的に説明したとしても二十六年前の事件のアリバイを証明することなど不可能なはずだ。物語としては、冤罪が晴れたのかどうかは描かれていない。が、作者がプライベートで注目する冤罪事件の解決もひとつの目的としているのだろう。

吉敷が刑事を志すきっかけとなった事件も描かれている。18歳の若々しい吉敷が描かれているのだが、到底18歳とは思えない思考原理だ。法律家を目指しつつも、闘争に巻き込まれ死んだ友の無念を晴らすために行動する。若い吉敷に、当たり前の若々しさを感じることはない。

今の大学生のようなチャラチャラとした雰囲気はいっさいない。警部になった吉敷とほぼ変わらず、気難しく融通の利かない若者という印象しかない。こんな大学生が同級生だったら、さぞめんどくさかっただろうなぁと想像してしまう。

文庫版描き下ろしの作品があるのだが、強烈なインパクトは特にない。特徴的な形をした最中がどこで買われたのか。それを突き止めることが、犯人逮捕へとつながる。最中の正体を突き止める部分は面白い。が、それがそのまま犯人につながるとは予想外だった。

もうひと捻り何かがあり、犯人逮捕に苦戦するのかと思った。吉敷は少しの助けとして登場し、あとは過去の思い出話に花を咲かせることになる。吉敷シリーズには珍しい形の作品だ。気難しく他人とかかわることが苦手と思われた吉敷が、それなりに人付き合いもできるのだと思わせる作品だ。

作者の主張が思いっきりアピールされた作品なのだろう。




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