2012.9.23 行きたくはないが、興味はある 【辺境・近境】
評価:3
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■ヒトコト感想
リュック片手に旅にでる作者。この旅が、作者の文体と同じようにのんびりした旅に思えてしまう。非常に危険な目にあっているにも関わらず、なんでもないようなことのように描く。作者のエッセイは、自分の壺にはまれば面白いというのはわかっていた。旅エッセイといっても、当たり前の旅ではない。モンゴルの草原やメキシコのディープな町。ひたすらうどんを食べ続ける旅や、ただ、アメリカを車で横断するだけの旅。本作を読んで、同じような旅をしたいとは思わない。あえて人とは違う旅をし、その特別具合を特にアピールすることなく、淡々と見て感じたことをエッセイとする。作者の文体とあいまって、妙に引き込まれてしまうのはいつものことだ。
■ストーリー
久しぶりにリュックを肩にかけた。「うん、これだよ、この感じなんだ」めざすはモンゴル草原、北米横断、砂埃舞うメキシコの町…。NY郊外の超豪華コッテージに圧倒され、無人の島・からす島では虫の大群の大襲撃!旅の最後は震災に見舞われた故郷・神戸。ご存じ、写真のエイゾー君と、讃岐のディープなうどん紀行には、安西水丸画伯も飛び入り、ムラカミの旅は続きます。
■感想
旅エッセイ。讃岐のディープなうどん紀行は、うどん好きではなくても、うどんを食べたくなる。カフェでコーヒーを飲むようにうどんを食べる地域。サラリと食べて、サッとでていく。他県の人からすると考えられない状況ではあるが、楽しそうだ。うどんばかり食べて飽きないのか?とも思うが、飽きないおいしさなのだろう。作中に登場する中村うどんの衝撃的な商売スタイルは、一度見てみたくなる。客が自分でうどんを茹でて食べるなんてのは、究極のセルフサービスだ。
作者のメキシコの旅は普通ではない。メキシコ自体、危険な地域という印象はあるが、そこにリュックひとつで乗り込む作者もすごい。無謀な旅をしているようだが、それなりにリスク管理はされているのだろう。バスの中に武装した警官が乗り込んでくるなんて、映画でしかない。なぜ、あえてそんな危険で辛い旅を続けるのか、という疑問が終始つきまとうが、それが変に面白くて読むのをやめられない。明るく楽しい、誰もが夢見るような旅ではない。それらとは対極にある、あえて辺境へと突きすすむ作者がすばらしい。
無人島やモンゴル草原では、自ら辺境へ入り込んだくせに、簡単に根を上げているのが面白い。夜中に虫が群がってくるのが嫌だとか、モンゴルの食べ物や水が合わないだとか、正直な感想に溢れている。恐らく、作者が根を上げるくらいだから、相当な環境なのだろう。しかし、その環境が当たり前の人もいる。辺境へと入り込み、四苦八苦する作者の姿を読むのも面白いが、平然とした顔で、ゴミが浮くにごった水を飲み干す作者というのもイメージできる。ひ弱ではないのだろうが、作者に対してどこか都会的なイメージが捨てきれないでいる。
辺境へ旅してみたいとは思わないが、他人が旅する姿を読むのは面白い。
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