ハッピー・リタイアメント  


 2011.6.27  バカ正直な自衛官が面白い 【ハッピー・リタイアメント】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

財務官僚と自衛官が天下った先は、天国のような企業だった。社会の終身雇用制を維持するために、必要な制度である天下り。作者なりの解釈がくわわったその解説はとてもわかりやすい。本作では天下りを揶揄しつつ、天下り先のぬるま湯環境から脱却しようとする男たちの物語だ。作者お得意のバカ正直な元自衛官と、なにやら裏がありそうな教育係の女性。そして、家族がバラバラになった元財務官僚。この三人がチームを組み、既存の慣習をうち破る行動にでる。冒頭には、作者の実体験と思われるような面白エピソードがある。物語と密接にリンクしており、重要な意味を持つ部分だが、やけに面白い。リタイアを控えたサラリーマンが読んで、希望を持つたぐいの作品ではなく、単純に破天荒な流れを楽しむ物語だ。

■ストーリー

定年を四年後に控えた、しがない財務官僚・樋口慎太郎と愚直だけが取り柄の自衛官・大友勉。二人が突如再就職先として斡旋されたJAMS(全国中小企業振興会)は、元財務官僚の理事・矢島が牛耳る業務実体のない天下り組織。その体質に今イチ馴染めない樋口と大友は、教育係となった秘書兼庶務係の立花葵から、ある日、秘密のミッションを言い渡される…。

■感想
世間からは目の敵にされる天下り。社会を維持するためには必要なシステムなのだが、一般市民はとうぜん納得しない。そんな怒りの気持ちを増幅させるように、元財務官僚の樋口と元自衛官の大友が天国のような職場に天下る。最初は天下り先のどうしようもない企業体質を描いている。企業としての目的より、天下ったものたちをただ養うためだけに存在する企業。とんでもないことだが、これが現実なのだろう。樋口と大友がリタイア間近であっても、天国の環境より、やりがいを求めるような男たちだということで、物語は動いていく。

定年間近になればわかるのだろうか。何の仕事もない飼い殺しのような環境には絶えられない。しかし、作中では天国だという描写がされている。確かに、人生の先が見えた年齢になると、仕事にやりがいを感じるよりも、のんびりと、何もせず、金だけが転がり込んでくる状態が理想なのだろう。恐らく、今バリバリと働いている30代、40代のサラリーマンは多少うらやましいと思うかもしれないが、そんな環境におかれると、とたんに暇すぎておかしくなるのではないだろうか。

物語は作者お得意の、協力して悪者を出し抜くという流れだ。天下り先の悪の権化として描かれた男が、まんまとはめられていく姿は爽快だ。そして、三人が幸せなリタイア生活を送るためにとった行動も納得できる。個人的には、自衛官の世間知らずな行動が面白いのだが、それ以外にも、すでに時効となったはずの借金を返そうとする債務者たちの心など、なんだか変に楽しくなる部分が多数ある。基本的にはハッピーエンドなので、楽しい終わり方となる。天下りシステムをどうにかするというのではなく、天下りに反逆するような行動が読者を楽しくさせるのだろう。

リタイア間近の人も、まだまだリタイアする予定のない人も、楽しめる作品だ。




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