ハピネス  


 2013.7.1      ママ友たちの隠れた確執 【ハピネス】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

タワーマンションで暮らす女たちの物語。子供の名前+ママという、子供ありきのママ友の世界。同じような環境を身近で見ていたものとしては、ママ友の世界の恐ろしさは十分伝わってくる。同じマンションに住んでいるということでママ友になる。生活レベルが近いとしても、そこには多少なりとも差がある。子供の進学や旦那の収入などが差別の要因となりえる世界。

主人公の有紗が抱える問題はやっかいだ。が、ママ友たちとの関係はそれ以上にやっかいだ。ただ、不倫やイジメなど、なでもありなママ友たちのドロドロとした世界が描かれるかと思いきや、そうではない。作者の作品としてはめずらしく、前向きな気持ちになれる終わり方だ。

■ストーリー

三十三歳の岩見有紗は、東京の湾岸地区にそびえ立つタワーマンションに、三歳二カ月の娘と暮らしている。結婚前からの憧れのタワマンだ。おしゃれなママたちのグループにも入った。そのリーダー的な存在は、才色兼備の元キャビンアテンダントで、夫は一流出版社に勤めるいぶママ。他に、同じく一流会社に勤める夫を持つ真恋ママ、芽玖ママ。その三人とも分譲の部屋。しかし有紗は賃貸。そしてもう一人、駅前の普通のマンションに住む美雨ママ。

彼女は垢抜けない格好をしているが、顔やスタイルがいいのでいぶママに気に入られたようだ。ある日の集まりの後、有紗は美雨ママに飲みに行こうと誘われる。有紗はほかのママたちのことが気になるが、美雨ママは、あっちはあっちで遊んでいる、自分たちはただの公園要員だと言われる。

■感想
友達と思っていたママ友グループで、自分は公園要員だった。仲の良いグループでも、何かしら違う部分を見つけ、そこからちょっとした差別が生じる。それは、どんな小さなグループであっても、避けられないことだ。本作ではセレブなママ友グループに違和感を持ちながらも、そこに所属することに安心感を得る有紗をメインに描かれている。

グループの中に本音で話し合える仲間を得て、そこからママ友グループ内での、表にでないいざこざが噴出する。本作を読むと、女とはなんと恐ろしい生き物だと再認識してしまう。男であれば、こうはならない。表面を取り繕うことにかけては女の方が断然上手だ。

ママ友とその家族は、同じマンションに住んでいるとはいえ、どうしても生活レベルの差はある。子供の進学問題や、旦那との関係など、すべてがママ友たちの間では、見えない格付けとなる。そして、絶妙なバランスで保たれていたそのグループのバランスを崩すのは、ひとりのママのとんでもない行動からなのだが…。

今話題の不倫するママだ。ただ、これがまたすさまじく、相手がママ友の旦那というのがありえない。女の恐ろしさを一番感じる場面かもしれない。男ならば、恐ろしくて手が出せないのが普通なのだろう。

作者の作品は、救いようのないラストの作品が多い。中盤までの問題の深刻さから、有紗が最後にはズタボロになって終わるのかと思えた。が、結末は意外にもさわやかで希望の持てる終わり方となっている。アメリカへ単身赴任中の夫に別れを切り出され、親子で路頭に迷うだとか、ママ友たちとの確執がエスカレートして、なんてことを想像してしまった。ママ友たちの世界の奥深さと、どんなに小さなグループであっても、世間の縮図となるということがよくわかる作品だ。

さわやかなラストのおかげで、やけにすっきりとした読後感がある。




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