花の図鑑 下  


 2012.12.16    自分だったらどうするか? 【花の図鑑 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻から続く3人の女性との関係に決着がつく。それは35歳の男が結論として受け入れるべきことなのだろう。古くからの付き合いで、会えば体を重ねてきた法子。飲み屋のママで、金を要求されダラダラと関係を続ける薫。美しくつつましい、女性として魅力あふれる麻子。男として結婚を視野にいれると、必然的に選ばれる女性は決まってくる。中座は下巻に入り、迷うことなく麻子に集中するのだが、ものごとはそううまくすすまない。年齢的に感情移入しやすいというのもあるが、読んでいて気持ちがざわめく場面あり、ほっこりと安心した気持ちになる場面ありで、心に少しの刺激を与えられているような感覚となった。自分だったらどうするのか?と考えるのは、間違いなく男だけだろう。

■ストーリー

啓一郎は法子や薫との関係を続けながらも、麻美にますますひかれていった。麻美は遊びでは恋愛できないと、啓一郎との関係に距離をおこうとする。が、ついに麻美を沖縄旅行に連れ出すことに成功した。一方、何か啓一郎の変化を感じた法子は、自分から去っていった。また薫との仲も清算した。本気で結婚を考え始めた啓一郎だったが、麻美からの意外な申し出を聞かされる。求めるものは知か美か性か。三人の女たちの間で彷徨う男の恋愛模様を描く。

■感想
35歳独身。女性には不自由しない男、中座。下巻では、妹の結婚があり、いやがおうでも自分の結婚を意識することになる。長く腐れ縁が続いている法子との結婚はあるのか。自由で結婚願望が皆無の法子との結婚とは、どういった生活になるのか。中座が思うのは、結婚相手を選別するためには当然考えることだろう。自分だったらという思いと、一点集中し、麻子へすべての力をかけるのはどうなのか、そんな不安定な中座の気持ちがツラツラと描かれている。

中座は女性との付き合いの中で、いろいろな場所へ出かけている。各地の名所をたずね、ちょっとした旅小説風でもある。身持ちが硬い麻子をどのようにして口説いていくのか。薫という、ちょっとした悪女にひっかかってしまった中座と、息子の不始末を面倒みる父親というのは、なんだかこの物語の中で異色だが、欠かせない要素のような気がした。父親の言った、「独身だから身ぎれいにしておけ」という言葉は、やけにこころに響いた。結婚を意識するしないに関わらず、トラブルは面倒だが、独身だからこそ発生したトラブルというのがある。

麻子との関係はどうなるのか。本作の結末を読むと、なんとなくそうなるだろうと予想はついた。結婚に向き不向きはある。が、女の気持ちというのは、よくわからないというのが正直な感想だ。本作はそのあたり、女性の未知なる部分がよくでている。3人のタイプの違う女性たちは、それぞれに少なからず信念がある。中座はそれに気付くことなく、突き進んでしまった。自分が中座の立場だったらどうしたのだろうか…。物語として強烈なインパクトはないが、ゆっくりと日常の中でのちょっとしたスパイスとして男女間の物語が描かれているので、なんだか妙に心に残っている。

ベタベタ甘甘ではない、大人の男女の恋愛小説だ。




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