花の図鑑 上  


 2012.12.6    同時進行の大人の恋愛 【花の図鑑 上】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

独身を謳歌し3人の女性との関係を継続する中座が主人公の本作。明確な恋人関係にはないが、体の関係を続ける男の日常を描いている。女性を花に例え、様々な花を観賞する中座。大人の男女の物語を描いた恋愛小説といえるだろう。肉体関係ありきの中座だが、唯一、なかなか関係を結べない女として麻美が登場する。出会いは偶然だが、そこから関係を深めようとする過程というのが、なんだか恋愛に奥手な高校生のように思えてきた。大人の恋愛となると、純粋な恋愛感情だけでは成立しない。結婚も考えるだろうし、金や世間体も考えるだろう。本作の恋愛に対するとらえ方というのは、本作の主人公の中座のように、30代中盤ならではの考え方なのだろう。

■ストーリー

鉄鋼関係の会社に勤める中座啓一郎には二人の恋人がいた。ひとりは画商の千倉法子。啓一郎とは学生時代から関係が続いている。もうひとりはスナック・バーのママの田川薫。恋愛感情というよりも、彼女の肉体にひかれていた。そんな時、啓一郎は婦人雑誌の記者だという寺田麻美と知り合い、彼女にも魅了されてゆくが…。女たちの間で彷徨う男の恋愛模様を軽やかに描く。

■感想
中座が付き合う女性は3人登場する。古くからの付き合いの法子。スナックのママである薫。そして、旅先で偶然出会った麻美。この女たちと中座がどのように付き合っていくかが、中座のフラフラする心と共に描かれている。肉体関係が最初からあるのは法子で、その後、薫とも肉体関係をもつことになる。上巻では肉体関係を結べないのが麻美なのだが、この麻美のどっちつかずの態度というのが、なんとも男心をくすぐる描き方をしている。丁寧な会話と、途中まで体を許すが、最後まで決して体を解放しない。謎のある女性の魅力が存分に描かれている。

スナックのママである薫との関係というのが複雑だ。偶然なのか意図的なのか、薫から誘われ体の関係を結ぶ中座。その後、ことあるごとに金を無心されるが、好きという言葉をつなぐ。大人の男として体の関係を結ぶことについて、あまり戸惑いはない中座。女に金を払うというのが、どのような心境なのか。作中では、ある意味しょうがない、楽しめた代償だという描き方だ。女から金づるにされていると気付きながら、それをそのまま受け入れる中座という男の、度量の広さのようなものを感じてしまった。

3人の女に対して、中座はどのような決断を下すのか。35歳である主人公が、結婚を考える発言もあり、かといって、すぐに結婚をしようとは思わない。今となっては、35歳で独身というのは、まったくめずらしいことではない。本作が描かれた当時では、かなり晩婚の方なのだろう。独身を謳歌する男の楽しげな女性遍歴。軽い感じの遊び人の物語と思えないのは、作者の生真面目さがあるからだろう。出会った女とその日のうちに関係をもつことに、多少の戸惑いを覚えるあたり、時代と作者の性格がよくあらわれている部分だ。

下巻では、中座が3人からひとりを選び、結婚を決断するまでいくのだろうか。




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