花のデカメロン  


 2012.11.28    デカメロン知ってる? 【花のデカメロン】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

「デカメロン」という古典はまったく知らない。そんなものがあることすら知らない状況で本作を読むと、なんだか新鮮な気持ちになる。「ギリシャ神話を知っていますか」や「あなたの知らないガリバー旅行記」風な古典紹介モノだが、まったく知らない作品というのは初めてだ。教会で10人の男女が語り合った物語ということで、そこには必然的に男女の物語ばかりになる。叶わぬ恋に熱を上げる女の話や、女を手に入れるために策略を練る男の話など。古典にありがちなパターンだが、男女の関係がものすごくフランクで、男が女を熱く口説けば、女はあっさりと体を許すというのが定番となっている。そればかりか、間違ってベッドに入れば、そのまま最後まで…、なんてことがあたりまえの世界だ。

■ストーリー

『デカメロン』は、フィレンツェの教会で7人の淑女と3人の紳士が10日間で百話を語った物語。この古典中の古典から、エロチックな、また機知に富んだ男と女のお話を取り出し、阿刀田流スパイスをかけました。すると…。現代風に面白く生まれ変わった恋愛の手引き。

■感想
大流行したペストから逃れるために集まった男女が語った物語集。10日間という期間の中で、語られた物語は、男女の愛欲にまみれている。細かい設定や、時代背景などを抜きにして、一番シンプルでわかりやすいのが男女間の物語なのだろう。男が女に恋をし、枕を共にする。不倫は当然、男があちこちの女に手を出すのは規定路線として、夫のある女が積極的に若い男に手をだすというのが物語り全体として強く印象に残っている。身分の高い女が身分の低い男を自由にする。男女の欲望が一致すると、なんでもありな世界となる。

男女の愛欲は、騙し騙されの世界でもある。男は女と関係をもちたいが、なかなか相手がなびかない。高価な贈り物で気を惹こうとするが、うまくいかない。最終的には大金をちらつかせ、女をものにするのだが、大金を渡すのが惜しくなる。どのようにして、女を騙すのか。男の浅ましさと、女の都合のよい考え方が交錯する物語だ。古典なので、昔から男女共に物語のような欲望があったのだろう。現代も変わらず続いている欲望。古典の方があからさまに感じるのは、突き詰めれば、今ほどモラルに厳しくなかったからだろう。

古典の物語は、現代に通じるものがあるが、もうひと捻りほしいと感じるパターンがある。そこを作者は独自の解釈で味付けしている。男女の不倫の末、なんだかんだとありながら最後には幸せになる。作者はそれをハッピーエンドでは終わらせたくない。読むと、作者のアレンジがすばらしいというのを感じることだろう。本作の最後の物語は、その作者のアレンジが衝撃的だ。女の献身的な行動に対して、男はつぎつぎと難題を突きつける。最後に女の真実の愛に気付いてハッピーエンドが原書だが、作者はそこにひと捻りをくわえる。献身的な愛に報いなかった男には、当然の罰がまっているという衝撃的なオチだ。

「デカメロン」を知らない人は、読んでみたくなるだろう。




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