2011.9.3 母親という生き物の本性 【母なる証明】 HOME
評価:3
■ヒトコト感想
母親が知的に障害のある息子の無実を証明するために、真犯人を探しだす。なんていう単純なストーリーを想像していた。結果として大きく違ってはいないが、非常にブラックというか、人間の心の奥底にある執念というか、母親という生き物の本性を見たような気がした。息子を溺愛し、息子を助けるためならなんでもする。母親の中では、世界は息子のトジュンと二人だけの世界のように思えたのだろうか。物語全体に流れる陰鬱な雰囲気と、貧困にあえぐ人々。多少、同情の余地があるのかもしれないが、それでも強烈なインパクトを残す親子だ。母親というのはこれほど強く、執念深く、息子を助けるためにはなんでもするような人種なのだろうか。恐ろしいまでに人間本来の、”種を存続させる”ということの執念を感じた。
■ストーリー
漢方薬店で働きながら一人息子のトジュン(ウォンビン)を育て上げた母(キム・ヘジャ)。二人は貧しいながらも、母ひとり子ひとりで懸命に生きてきた。息子は、内気だが朗らかな純粋な青年であった。ある日、二人が住む静かな街で凄惨な殺人事件が起きる。一人の女子高生が無惨な姿で発見されたのだ。事件の第一容疑者として、トジュンの身柄が拘束された。彼の無実を証明するものは何もない中、事件の解決を急ぎ警察は形ばかりの捜査を行い、トジュンの逮捕に踏み切ろうと画策する。一方、弁護人はやる気もなく、有罪判決は避けられないように見えた。無実を信じる母親はついに自ら立ち上がり、息子の疑惑を晴らすため、たった一人で真犯人を追って走り出す。
■感想
本作の雰囲気をどこかで感じたと思ったら、「殺人の追憶」だった。同じ監督らしいが、納得できる。普通ならば、あっさりとなんのごまかしもなくハッピーエンドにできる題材のはずが、あえて人間の嫌な部分を見せるような描き方をしている。それが、強烈なインパクトとなり、物語全体を暗く寂しいものにしている。結果として表向きはハッピーエンドだが、観衆たちはなんともいえない微妙な思いでラストを迎えることだろう。トジュンを信じる子供思いの母親という流れが、中盤から変わってくる。ある意味、強烈な息子への愛が表現されていると言ってもいいのかもしれない。
殺人事件の容疑者として拘留されたトジュン。観衆は、トジュンの純粋な行動を見ているだけに、真犯人が別におり、それを母親が見つけ出すという流れを想像するだろう。ちょっとしたミステリー風に言うならば、トジュンと仲良くしていた男が真犯人の可能性がある、なんてことも想像してしまう。それが、トジュンが突如として思いだした言葉をきっかけとして、衝撃的な事実が明らかとなる。ここからは、人間の恐ろしさというか、モラルや何もかも超えた、母親のすさまじい愛というのを感じずにはいられない。
ラストでは、母親とトジュンの仲むつまじい生活シーンとなる。軽い知的障害のあるトジュンがぼそりとつぶやく言葉が恐ろしい。いったいこの男はどこまで理解しているのか。母親としてのそのときの心境を思うと、なんともいえない複雑な気分になる。人の恐ろしさというより、母親が息子を思うすさまじさというものばかりを感じてしまう。これは母親と息子だからこそ成り立つのだろう。母親と娘であれば、こうはならない。どこかタブーな香りがする題材を、あっさりと描ききるのはすごい。儒教の国で作られたというのが、なおすごい。
この手の作品では、日本よりも韓国の方がすぐれている。
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