殺人の追憶


 2008.5.18  一度見たら忘れられない 【殺人の追憶】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
個々のキャラクター、ミステリアスな展開、暗く湿っぽい空気、そして全体を覆うような陰鬱な雰囲気。すべてに引き込まれてしまった。実話を元にした本作。映画的演出もたっぷりと盛り込まれているので、見ていて飽きることがない。数々の伏線。ちょっとした小ネタ。個々のキャラクターが生き生きしており、それがより現実味を強めている。暗く陰鬱な事件をさらに冗長するように、印象的な場面ではかならず雨が降っている。対照的に晴れの場面では、ほんの少しだけ暗闇の中に光がさすような雰囲気すらある。今の時代では考えられない捜査方法も興味を引かれる原因なのかもしれない。強烈なあの刑事たちをしばらく忘れられそうもない。

■ストーリー

1986年ソウル近郊の農村で起こった女性の猟奇的殺人事件。特別捜査本部のトゥマン刑事はソウル市警から来たテユン刑事と組んで事件に挑むが、捜査方法の異なるふたりは対立し、何度も失敗をする。しかし、ある出来事がきっかけとなり有力容疑者が浮上する

■感想
現実の事件を元に作られた本作。結果は現実どおりということで、ある意味納得のできない終わり方なのかもしれない。この手の作品であれば、途中でかならず犯人を予想し、それを裏切られるとかなり驚くというようなことがある。期待はずれな終わり方なのだが、しっかりと心の中には残っている。事件の陰惨さと、刑事たちの強烈なまでの執念。年代的にそう古くはないはずなのに、まるで日本の昭和初期を思わせるような生活様式。全てがこの事件にマッチしているといっても過言ではない。

むちゃくちゃな捜査をするトゥマン刑事。それとは対照的に的確な判断をするテユン刑事。この二人がありきたりな名コンビではなく、反目しあいながら捜査を進めていくのが面白い。徹底的に自分の勘を信じるトゥマン。客観的事実と書類だけを信じるテユン。結末間近ではいつの間にか二人の性質がまったく逆になり、テユンが熱くなり、それをトゥマンが止めるということにまでなる。この二人のキャラクターを軸に、好感はもてないが、一癖もふた癖もある登場人物たち。降りしきる雨の中、たたずむ姿がとても似合う者たちばかりだ。

猟奇的な事件の謎が全て明らかになったわけではない。そのため消化不良に感じるかもしれない。物語自体のトーンが犯人を見つけ出すことに重点をおかず、犯人を逮捕するための決定的な証拠をどのようにして見つけ出すか、それに力を入れているように思えた。拷問により自白を強要するトゥマン。理詰めで解いていくテユン。結局は二人をもってしても、映画的な終わりがおとづれることはなかった。なんだか、このあたりはものすごく実話をベースにしているからだ感じた。

久しぶりにしびれるような作品を見た。羊たちの沈黙を最初に見たときの衝撃に近いのかもしれない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp