不連続の世界  


 2012.5.9   都市伝説そのものだ 【不連続の世界】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

好きなタイプの短編だ。それぞれの短編で不可思議なことが発生し、それを解き明かしていく。そこに存在しているのかいないのか、気のせいなのか、それとも…。オカルト風でもあり、科学的な答えが示されそうでいて、驚きの結末となる。ある歌を聴くと死ぬなんてのは、都市伝説レベルの話だが、それを物語として成立させてしまう筆力がすごい。オカルト好きや心霊写真、なんらかの呪いや、言い伝えなど都市伝説で登場しそうな話が好きな人は、必ずはまることだろう。窓ガラスを叩かれる音を聞くと、必ず悪いことが起きるなんてのは、ゾクゾクしてしまう。怪しげな話が盛りだくさんであり、ある程度しっかりとした結末を描いている本作はすばらしい。

■ストーリー

妻と別居中の多聞を、三人の友人が「夜行列車で怪談をやりながら、さぬきうどんを食べに行く旅」に誘う。車中、多聞の携帯に何度も無言電話が…。友人は言った。「俺さ、おまえの奥さん、もうこの世にいないと思う。おまえが殺したから」(「夜明けのガスパール」)―他四篇、『月の裏側』の塚崎多聞、再登場。

■感想
まず冒頭の「木守り男」から強烈だ。人物紹介的なものもあるが、まず登場人物たちが個性的すぎる。散歩道沿いにボロい家を借り、そこで二重生活を送る男。主人公は「月の裏側」で登場した多聞ということになってはいるが、多聞は探偵役でしかない。そこに登場する奇妙な出来事に、必ずはまり込んでしまうだろう。人によってその見え方が変わってくる謎の木守り男。オカルト臭まんさいで、これ以上ないほど強烈な引の強さがある。それでいて、最後はオチで「ワ!」と驚かすような恐怖がある。

「悪魔を憐れむ歌」は、まさに都市伝説をそのまま小説化したような作品だ。地方のFM放送局に送り主不明のテープが送られ、そのテープを放送したところ大反響となる。そして、もう一度放送したときに…。曲を聴くと死ぬなんてのは、まさに都市伝説だ。それをそのまま物語とし、しっかりと結末を描いているのがすばらしい。人に死の臭いを嗅がせる曲の作り方を想像したときには、思わず寒気がした。なぜ?や、どうして?なんて深く考えてはならない。この恐ろしげな雰囲気を楽しむのが正しい読み方だろう。

「夜明けのガスパール」は、最後にあっと驚かされることだろう。夜行列車で怪談を語りながら讃岐うどんを食べに行く。よくわからないツアーに参加した多聞が経験する不思議な出来事。今までの短編の流れがあるからこそ、最後のオチに驚いてしまう。冷静沈着で、謎を解き明かす多聞だからこそ、成り立つ物語だろう。あいまに登場する奇妙な話も強烈で、この短編だけでもいくつも興味をそそられる不思議な話がある。窓ガラスをノックする音を聞くと、不吉なことが起こる。なんてのを意識してしまうと、作中の登場人物と同じように、窓ガラスの近くに意識して近づかないようにしてしまう。

都市伝説が好きな人には、たまらない作品かもしれない。




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