ファミレス  


 2013.10.25     ファミレスは個人主義の象徴? 【ファミレス】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

人生の折り返しを迎えた男たちが、妻との関係を考える。ファミレスというタイトルから、家族の絆を描く物語かと思いきや、ファミレスはあまり良い意味で描かれていない。ファミリーレストランではなく、ファミリーレスだ。家族がバラバラに好きなものを食べられる手軽さはあるが、家族の絆は感じない。

男たちが料理に凝り、料理と家族を結びつけるような本作。なにより50前後の男たちにとって、妻や家族とは何なのかが伝わってくる作品だ。ファミレスは和洋中別々の物が食べられ便利だが、家族そろって同じものを食べるということがない。つまり、個人主義の象徴だということだ。50前後の男たちが、家族そろって食事する場合は、ファミレスは不向きなのだろう。

■ストーリー

妻と別居中の雑誌編集長・一博と、息子がいる妻と再婚した惣菜屋の康文は幼なじみ。料理を通して友人となった中学教師の陽平は子ども2人が家を巣立ち“新婚”に。3・11から1年後のGWを控え、ともに50歳前後で、まさに人生の折り返し地点を迎えたオヤジ3人組を待っていた運命とは?夫婦、親子、友人…人と人とのつながりを、メシをつくって食べることを通して、コメディータッチで描き出した最新長篇。

■感想
50前後の3人の男たちが登場するが、中学教師の陽平はかなりきつい状況だと思った。妻の本の間に挟まれていた離婚届。署名済みとなれば、本気なのかと気になってしまう。子供が独立し、夫婦二人の生活になると、気づまりし熟年離婚の可能性が浮かび上がる。

陽平の立場は針のむしろだ。変なプライドから、妻に問いただすこともできない。妻をないがしろにしたつもりはなくとも、妻に対して完璧な夫だったという思いはない。陽平のひとり語りがかなり心に染みてくる。強烈なインパクトはないのだが、自分に置き換えて考えると、ジワジワ苦しみがわいてくる。

妻と別居中の編集長や、再婚した惣菜屋の店主。陽平を含め、3人は料理に凝る。男の料理というと、豪快で大雑把なイメージがあるが、3人は繊細でこだわりの料理を作る。料理教室の講師であるエリカが、手抜き料理をオススメするあたり、妙に納得してしまう。

男がこだわりの料理を作ることが、どれだけ妻にとっては迷惑なのかも語られている。コメディタッチで描かれてはいるが、今までの、男が料理することの良さを全否定するような内容には驚かずにはいられない。ただ、それはファミレスの便利さに通じる部分としての手抜き料理なので、本当に料理を楽しむ人は別なのだという流れになっている。

本作では料理の描写が多々ある。それは上品な”料理”というよりも、”メシ”といった感じだ。ただ、その”メシ”がとてもおいしそうに感じてしまう。腹が減っているときに読むと、作中に登場するメシを食べたくなる。特に惣菜屋がひと手間かけて作るメシはかなり魅力的だ。家庭ではできないひと手間。そして、それを食べた人みんなが幸せになるメシ。

腹が減っていては元気が出ない。メシを食べれば元気がでる。昔ながらの根性論的な流れもあり、かと思えば効率重視のお手軽料理あり。何が正解かはわからないが、多様性の世の中を象徴したような作品だ。

料理を通じて家族の在り方を考える物語といった感じだ。




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