永遠の仔4  


 2013.7.16     とんでもない傷を負った子どもたち 【永遠の仔4】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

前回までは、物語の鍵を握るのは間違いなく聡志かと思っていた。が、優希の変化によりジラフとモウルにも大きな変化がおとづれることとなる。家族や恋人や母親など、今まで支えとなっていたものが崩れると、そこから大きく気持ちが崩壊していく。三人の行く末は明るくない。というよりも、壊れる前兆がはっきりと見えている。

結局三人はトラウマを払しょくすることができないのか、それとも何かがきっかけとなり不幸の連鎖から抜け出すことができるのか。人生をやり直すためにトラウマから逃げるのか、それともトラウマに立ち向かうのか。これほど辛い子供時代をすごしてきた三人が、ラストにどうなるのか。決して幸福な結果とならないことは容易に想像がつく。

■ストーリー

笙一郎と梁平の三人だけで母の葬儀を終えた優希は、悲しみを振り払うように再び病院に戻っていた。失踪を続けていた聡志は笙一郎の前に現れ、事件の真相と姉への思いを語り始めるが、捜査の手が伸びたことで再度逃走を図り、交通事故に遭い病院に搬送される。意識を取り戻した聡志に、優希は長年抱えてきた秘密を告白する決意を固めたが…。

■感想
聡志が放火事件を起こし、そして天涯孤独となる優希。母親がボケ始めた笙一郎。そして、恋人との関係がめちゃくちゃになった梁平。三人が出会うまでは、それぞれ、それなりの生活を続けていたはずが、三人が再会したことで、お互いの過去を思いだし、悪い方向へと流れていく。

弁護士や刑事など、社会的に認められる仕事をしていたとしても、決して拭い去れないトラウマ。トラウマの詳細が語られている部分というのは、読んでいて辛くなる。子供の気持ちを考えると、決してすんなりと忘れられるような経験ではない。

トラウマを抱えたまま、その先に見えてくるのは、壊れていく人々の行動のみだ。母親を良い環境で介護したいと考えた結果、金が必要となり汚い仕事に手を出す弁護士。恋人を捨てた結果、無くしたものの重要さを、無くして初めて気づく刑事。悲しいまでに悪い方向へと流れていく物語だ。

ひとつでも歯車がずれていれば、これほど悲しい物語にはならないだろう。あと少しだけ早く会話ができていれば。ほんの少し相手の誤解が解けてさえいれば。ちょっとした行き違いさえ防ぐことができれば、すべてがまるくおさまっていたはずだ。

結末へ向かう物語として、優希の父親が山でどのような目にあったのかは、簡単に想像がつく。その状況が詳細に語られるのだろうが、悲しい物語なのは確実だ。誰かに認められたいだとか、誰かに愛されたいと強く願う者たちが起こす事件というのは衝撃的だ。さらには、そこに至るまでに、普通ではない経験がある。

本作を読むと、世間の児童虐待だとかの話は、とんでもなく大きな傷を子供たちに植え付けているということが想像できる。大人が考えるよりも根深く、成長しても後を引く強烈な体験なのだろう。

ラストへと向かう道は暗く悲しいものだ。




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