デパートへ行こう! 真保裕一


2011.10.7  深夜のデパートで起こるドタバタ 【デパートへ行こう!】

                     
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■ヒトコト感想

深夜のデパートに集まる人々。群像劇形式で、様々な登場人物たちが深夜のデパートで偶然な出会いをする。すべてを失った男に、やくざに追われた元警官や、デパートの社長など、そこにいる必然性がない人の存在感はすばらしい。さらに警備員や、偶然入り込んだ若者カップルに、デパートに復讐を考える女従業員など、個性豊かな登場人物たちばかりだ。それぞれに複雑な理由があり、物語が進めば進むほど思わぬつながりが見えてきたりと、パズルが少しづつ完成していく快感がある。謎というほどでもないが、ミステリアスな流れもあり、先を予想する楽しさがある。ただ、複雑なだけに、頭の中で物語を整理できなければ、混乱する可能性がある。

■ストーリー

所持金143円、全てを失った男は、深夜のデパートにうずくまっていた。そこは男にとつて、家族との幸せな記憶がいっぱい詰まった、大切な場所だった。が、その夜、誰もいないはずの店内の暗がりから、次々と人の気配が立ち上がってきて―。一条の光を求めてデパートに集まった人々が、一夜の騒動を巻き起こす。

■感想
デパートを舞台にした群像劇。物語の核となる部分にどれだけ魅力を感じることができるか。多数の登場人物の中で一番キャラ立ちしているのは、間違いなくすべてを失った男だ。その男を中心に物語が進むかと思いきや、誰が主役というのはなく、物語は流れていく。ひとつの出来事に影響され、別の出来事にまで影響がでる。数珠繋ぎにつながっていく物語というのは読んでいて心地よいが、ストーリー的な面白さでいうと、いまいちかもしれない。結局何が起きていたのかというのを思い出そうとしても思い出せない。そんな複雑さがある。

デパートの警備の仕組みや、そこに泥棒へ入ろうとした場合の注意点など、興味深い部分はある。お客様第一主義を貫こうとする社長や、デパートを守ろうとする古株の警備員など、個性豊かな登場人物もいることはいるのだが、全体のインパクトは弱い。すべてを失った男というのが、物語にどんな役割をはたすかと気になっていたが、ほぼ最後まで大きな働きをしない。お互いがお互いを勘違いするというのは面白いパターンだが、夜中のデパートという限定された空間での面白さをそれほど感じることができなかった。

群像劇には最後に大きなカタルシスを感じる場面がある。本作でも、ほぼすべての登場人物たちが最後に屋上へ集まるのだが、そこに爽快感はなかった。想像できた流れとはいえ、抑圧された何かというのがそこまで溜まっていなかったので、なんだかあっさりと終わったという印象だ。都合の良い展開も若干気になった。真夜中のデパートという場所で、いったい何が起きたのか。すべての登場人物たちの悩みや苦しみを解決させようと強引な展開ばかりが印象に残っている。

複雑な群像劇を理解し、登場人物にどれだけ感情移入できるかがポイントだ。



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