蛇行する川のほとり 恩田陸


2011.6.14  女子高生の微妙な心の動き 【蛇行する川のほとり】

                     
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■ヒトコト感想

学生たちが何か一つの目的のために集まり、そこで過去の事件について探り合う。合宿という非日常の中で、あの夏の記憶がよみがえるというのは、作者の得意なパターンだろう。特に、女子高生の微妙な心の動きを描かせると、他を寄せ付けない雰囲気を作り出している。相手のことを警戒しつつ、憧れや嫉妬や対立など、様々な感情が入り混じり、過去の出来事の大暴露大会が開始される。連作を一つにまとめたということで、かなり強く惹きつけられる箇所がある。次回へと繋がる部分は、印象的な出来事で終わっている。主人公である鞠子目線で語られてはいるが、別の章では目線が変わり、衝撃的な事件も発生する。過去の秘密が明らかとなったとき、残酷な真実のみが残る作品だ。

■ストーリー

演劇祭の舞台装置を描くため、高校美術部の先輩、香澄の家での夏合宿に誘われた毬子。憧れの香澄と芳野からの申し出に有頂天になるが、それもつかの間だった。その家ではかつて不幸な事件があった。何か秘密を共有しているようなふたりに、毬子はだんだんと疑心暗鬼になっていく。そして忘れたはずの、あの夏の記憶がよみがえる。少女時代の残酷なほどのはかなさ、美しさを克明に描き出す。

■感想
作品を読むだけで、その雰囲気から誰が書いたかがわかる作品がある。本作はまさに”恩田陸”風の要素が多数つまった作品といっていいだろう。主人公が忘れていた過去の事件を、あることをきっかけとして思い出す。合宿という非日常の中で、先輩の女生徒に対する憧れや、得体の知れない奇妙な恐怖など、人物同士の人間関係より、内に秘められた気持ちを重視した描かれ方をしている。途中参加した男子生徒たちが、外野的ではなく、女生徒たちの間に一つの衝撃を与えるような発言を行う。この微妙な心理戦は見ていて楽しくなる。

学生同士が集まったからといって、安易な恋愛に発展することはない。過去の事件を暴くことがメインのように描かれている本作。香澄と芳野という憧れの先輩たちが、どういった秘密を持っているのか。そして、衝撃的な事故が発生した理由は。すべてはラストにしっかりと明らかにされている。ただ、その理由に納得できるかは微妙かもしれない。現実的とはほど遠い感覚をもった女生徒たちなので、独特な思考原理がある。刹那的というか、人生に悲観しないかわりに希望も持たない、そんな感覚かもしれない。

作者の描く高校生は、どこがガツガツした青春というのがない。綺麗で可愛い女子と、イケメン男子でありながら、そこに恋愛の要素はいっさいない。みずみずしく新鮮だが、食べることができない野菜のように、高校生でありながら、違和感がある。それは、作中ですべての行動が妙に大人っぽかったり、動揺という文字からはほど遠いような冷静さだったり、現実感のない高校生たちばかりだからだ。ただ、それが作者の売りでもあり、透き通るような爽やかさを作品全体に漂わせているのだろう。

作者の独特な雰囲気を味わいたい人は、ぜひ読むべきだろう。



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