ブルー・ゴールド 真保裕一


2012.12.30    水は貴重な戦略物資 【ブルー・ゴールド】

                     
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■ヒトコト感想

「水と平和はタダで手に入るもの」と思っている日本人にとって、まず水がビジネスになるということに驚いた。本作では”水”を戦略物資として、ビジネスマンたちが騙し騙されをくりかえす世界を描いている。世界中の巨大企業が水をビジネスのひとつとして考える。そこに切り込む弱小企業の男たちの、ピリピリするようなビジネスの戦い。作者得意のビジネス戦略モノだ。相変わらず細かい部分にまでしつこく食い下がる登場人物たち。そんなことにまで?という思いはある。商社のビジネスがどのようなリスクの上に成り立っているのか、そして、商社が大勝する裏ではどの程度泣きを見る人たちがいるのか。厳しいビジネスの現実が見えてくる作品だ。

■ストーリー

水の惑星―地球。だが、人類が利用できる淡水は、そのわずか1%にすぎない。10億を超える人々が、この瞬間も飲み水にさえ困っているのだ。今や水は戦略物質となり、世界中の巨大企業が激しい獲得競争をくり広げている。そこに斬り込む弱小企業の男たち。貴重な地下水を持つ酒造メーカーを強引に買収するも、予想もしなかった妨害が入った。真犯人を暴き出すための戦いが始まる。

■感想
序盤での水を中心としたビジネスの展開は面白い。豊富な地下水をもつ酒造メーカーを追い込むまでの鮮やかな手並み。そして、そこに精密機械工場を建てるための裏工作。ビジネスはすべてこうでなくてはならないと思わせる説得力がある。ある面では法律を破り、ある面では法律を盾にして戦う。矛盾だらけだが、自分たちの都合の良いように解釈するその強引さが必要なのかもしれない。商社やコンサルタントは、日々こんな仕事ばかりをしているのかと驚かされる反面、ちょっとワクワクするような気持ちが浮かんできた。

中盤以降、何かしらの妨害が入る。それも、ビジネス上の妨害ではなく、目的がなく、ただ失敗させたいがためだけの妨害だ。このあたり、今までがビジネスの策略メインで語られていたのが、ビジネスの側面をさぐりつつ、どこかで単純な人への恨みというのを匂わせている。妨害工作の裏にある何かを探るために、男たちはあらゆる手段をもちいる。いつもどおり、作者の作品では、さすがにそこまではやりすぎだろう?と思わせるくらいに徹底した調査と、無関係な人に対するアポなしの調査がある。

水をめぐるビジネスの戦いが、いつの間にか過去のあるビジネス上の事件の因縁へと繋がってくる。序盤の流れからは想像できない結末かもしれない。ただ、商社やコンサルタントとして、何千億もの仕事に携わり、ビジネスの成功に心血を注ぐ男たちの熱き戦いといのは、読んでいてこちらまで気持ちが燃えてくる。水がビジネスの材料として、これほどまで重要視されているというのは、日本に住んでいる限り気付くことはないだろう。自分のまったく知らない世界で、こんな熱い戦いが現実に繰り広げられていると思うと、興奮せずにはいられない。

水がビジネスになるなんて、誰が考えるだろうか。



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