2011.9.20 作者のノンフィクション? 【ブラザー・サン シスター・ムーン】
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■ヒトコト感想
最初の数ページを読んだ瞬間、「これって作者の私小説か?」と思ってしまった。それほど最初の印象は現実的で、何かの偶然で小説家になってしまったような印象をもった。一人の女と二人の男の青春を描いた本作。三人につながりはあるのだが、物語として重要なものではない。それぞれが自分の道を進むという物語だ。題材として、小説、音楽、映画と汎用的にわりと当てはまりやすいものを扱っているので、感情移入しやすいのかもしれない。男二人の物語はさておき、女流作家の物語は、そのまま作者のノンフィクションですと言われたら信じてしまうだろう。それほど、何もないままごくあたり前の青春物語となっている。感情がほとばしる熱い青春というのではない、作者らしいサラリとした青春物語だ。
■ストーリー
ねえ、覚えてる?空から蛇が落ちてきたあの夏の日のことを―本と映画と音楽…それさえあれば幸せだった奇蹟のような時間。
■感想
青春時代に後悔していない人はいるのだろうか。誰しもあのときああしておけば、なんてことを思うだろう。本作ではそれを補完するかのように、小説、音楽、映画と青春時代に打ち込みやすい、体育会系ではない題材を選んでいる。いざ、本作を読んで、三人のうち誰かに共感したかというと、特になかった。ただ興味深いのは、音楽サークルの厳しい序列や実力主義の部分と、就職時期になれば、そのままあっさりと現実を受け入れ、就職するという部分だ。どんなに音楽の才能があったとしても、プロにはならない。現実はそんなものなのだろう。
本作を読み始め錯覚したのは、作者の私小説ではないのかということだ。それほど、小説家になる女というのが、作者の学生時代のイメージにぴったりと当てはまってしまう。合コン三昧というわけでもなく、女子大生というよりも地味な女学生というイメージ。小説家になりたいとガツガツするのではなく、いつの間にか小説家になっていたという描写。すべてが頭の中に思い描く作者のイメージに合致する。何も知らずに読んでいたら、ちょっとした長いエッセイだといわれても信じていたかもしれない。
青春時代の夢をあきらめたり、夢を実現したり。さまざまな状態はあるにせよ、本作の登場人物たちは青春に後悔をしていない。誰が一番幸せかなんてことを考える必要がない。ごく当たり前に誰もが経験した青春を、緻密に描くと本作のようになるのだろう。じゃあ、自分の青春はどうだったか、なんてことを考えてしまう。本作ほどではないにせよ、それなりに何らかの事件やエピソードはあるはずだ。小説、音楽、映画という共感しやすいジャンルを選んだことで、感情移入できる人も多いかもしれない。ここにひとつでもスポーツものが入ればパーフェクトなのだろう。
つかの間、青春時代に戻ることができる?
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