ブランケット・キャッツ 重松清


2011.5.14  猫をレンタルしようとする気持ち 【ブランケット・キャッツ】

                     
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■ヒトコト感想

猫をレンタルするという考え方じたいに少し違和感をもつが、猫を触媒として、その家庭で生じている問題を描いている。それぞれの短編が、立場は違えどどこか問題があり、それが猫によって浮きぼりになる。中にはかなりズシリと心に重くのしかかってくる作品もある。期間限定のペットにどんな存在意義があるのか。慣れてきて可愛くなると、すぐに辛い別れがまっている。そんな一瞬の快楽のために、猫をレンタルしようとする。そこには、人の弱さや、いい訳じみた印象ばかり感じてしまう。タイトルからホンワカとした心温まる物語と思うかもしれないが、物語のその後を考えるとかなり陰鬱になる。猫がいなくなったその後を考えるのはルール違反だろうか。

■ストーリー

2泊3日、毛布付き。レンタル猫が我が家にやってきた。リストラされた父親が家族のために借りたロシアンブルー、子どものできない夫婦が迎えた三毛、いじめに直面した息子が選んだマンクス、老人ホームに入るおばあちゃんのために探したアメリカンショートヘア――。「明日」が揺らいだ人たちに、猫が贈った温もりと小さな光を描く7編。

■感想
ずしりと心に重くのしかかる物語がある。リストラされた父親が、家族のために借りた猫の物語はかなり辛い。ついつい自分におきかえて考えてしまうが、状況が状況だけにサラリと読み流すことはできない。家族、特に娘に辛い思いをさせ、レンタル猫でせめてもの思い出を作ろうとした父親。娘の口からはなたれる容赦ない言葉は、読んでいて心がキリキリと痛んでくる。リストラされた父親が悪い。子供に惨めな思いをさせる父親が悪い。すべて正論だが、それを一番よくわかっている父親の辛さを思うと、心が痛む。その後、さわやかな和解がまってはいるが、すべてが解決されたわけではない。

レンタル猫を借りようとする家庭には、どこか問題があるのだろう。日常生活で欠けたパズルのピースを、ひと時でも埋めようと猫をレンタルする。そこで、あらためて浮きぼりになる問題もあれば、解決される問題もある。老人ホームに入るおばあちゃんのためのレンタル猫などは、猫の場面よりも、ボケがはじまった描写に心を奪われてしまう。ボケが始まり、あつかいに困る家族たち。父親だけが自分の責任のように、気をつかう。結局は昔からある親の介護の問題にいきつくのだが、レンタル猫というカモフラージュによってぼやかされている。

本作の短編のうち、どれかに感情移入できるだろう。感情移入した結果、どう思うか。家庭に突然やってきた異物を歓迎するのか、戸惑うのか。解決困難な問題へのなぐさめとするのか、前へ進むための足がかりにするのか。ほぼすべてが前向きの印象を受けるが、慰めというイメージは拭いされない。本作が犬ではなく猫にした意味は何かと考えてしまった。犬ならば飼い主に忠実なイメージがある。逆に猫は身勝手なイメージがある。となると、レンタルということで、一時的な癒しという意味で、長期的な解決や関係を求めていないのならば、猫でいいような気がした。

タイトルからイメージするのは、ホンワカとした物語だが、内容は意外に酷なものだ。



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