美女と竹林 森見登美彦


2011.12.26  エッセイでも濃い妄想炸裂 【美女と竹林】

                     
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■ヒトコト感想

なぜ竹林なのか。偶然、作者の同僚に竹林を持っている人がいたかららしいが、それをテーマとしてエッセイを書くというのがすごい。ただ竹林を刈るだけ。面白おかしい出来事が、竹林を刈るという行動の中で登場するわけではない。すべては独特の文体と、頭の構造を疑うような濃い妄想と、愉快な仲間たちによって成り立っている。おそらく実際に竹林を刈りに行ったのだろう。そのあたり、持ち主家族の話や、周りの店の話など、いかにもエッセイ風の記述はある。かと思えば、竹林成金となる強烈な妄想の話なども登場し、虚構と現実が複雑に入り混じっている。注目すべきは、連載中に作者がブレイクしたということだろう。突然売れっ子となった戸惑いが読みとれた。

■ストーリー

「これからは竹林の時代であるな!」閃いた登美彦氏は、京都の西、桂へと向かった。実家で竹林を所有する職場の先輩、鍵屋さんを訪ねるのだ。荒れはてた竹林の手入れを取っ掛かりに、目指すは竹林成金!MBC(モリミ・バンブー・カンパニー)のカリスマ経営者となり、自家用セグウェイで琵琶湖を一周…。はてしなく拡がる妄想を、著者独特の文体で綴った一冊。

■感想
竹林を刈るということをエッセイの題材として、そこに面白おかしいネタが転がっていると思ったのだろう。実際に、どの程度竹林を刈りに行ったのかわからないが、思ったほど面白いことは起こらず、ただ疲れただけといったことを本作から読みとれた。もしかしたら、頻繁に竹林を刈りに行っていたのかもしれないが、本作からはそれを読みとれなかった。作者の頭の中で構築された、竹林を刈りにいけない言い訳や、現在の自分の状況や、締め切りなど、その他のことで竹林を刈りに行くということをぼやかしている。

独特の文体によって作者の色がでている。極めつけはありえないような妄想の数々だ。竹林で起業するなど、普通は想像もしない。うそかホントか、作者は小説家となるのとは別に、ヘンテコな未来を想像していたようだ。なんで竹林なんだ?と多くの人が思う疑問に答えるように、学生時代のゼミや、周辺環境のことなど、こじつけぽいことが書かれているが、ここまでくるとどれが真実でどれが虚構なのかわからなくなる。それが作者の狙いなのだろうが、ほのぼのとした文体でサラリととんでもないことが書かれていたりもする。

作者のイメージは、他の作品のモテない大学生のイメージそのままだ。本作を読んでもそれは変わらない。竹林の奥でかぐや姫を探すだとか、濃い妄想の数々も、オタクなイメージを増幅させる効果がある。本作では文庫化にともない、追加された文章がある。それはエピローグ的なもので、後日、なつかしの竹林を訪れるということなのだが…。ここでもほぼ竹林は関係ない流れとなっている。連載が始まったころには、マイナー作家だったのが、「恋は短し歩けよ乙女」の大ヒットで一躍売れっ子作家になった作者の戸惑いが、垣間見えるのが楽しくなる。

妄想の中で、美女が要素として必須なのは、作者の大きな特徴だろう。



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