盤上の敵 北村薫


2012.1.21  将棋のような伏線の数々 【盤上の敵】

                     
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■ヒトコト感想

我が家に殺人犯がたてこもる。妻を助けだすために男がとった行動は…。まるで将棋やチェスのように、序盤ではなんのためにそんなことをするのかわからないが、終盤になるとそれが活きてくる。すべてが計算された流れなのかもしれないが、最後になんともいえない爽快感がある。現実離れした事件と結末だが、エンターティメントとしては上質だ。殺人犯や妻のキャラクター付けがしっかりされており、物語全体が奥深いものとなっている。純一が妻を助けるためにとった行動を補完するように、様々な物語が構築されている。すべての要素が揃ったからこそ、最後の荒唐無稽な結末であっても爽やかですっきりとした感覚を持つのだろう。

■ストーリー

我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに包囲され、「公然の密室」と化したマイホーム!末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き犯人と交渉を始める。はたして純一は犯人に王手(チェックメイト)をかけることができるのか?

■感想
偽事件発生の裏には当然ながらそれぞれの理由がある。まずミステリーとして大掛かりなトリックが登場する前に、事件のバックグラウンドと隠された妻の秘密について、事件と平行するように語られている。このことにより、事件が解決へ向かう過程での読者の不満が和らぐことになる。胸のすくような結末であり、「そんなバカな」と思う非現実的な結果かもしれない。日本の警察はそうかんたんに騙されないだろうと思ってしまう。ただ、その前のキャラクターの物語を読んでいると、それもいいかなと許せてしまう土壌ができあがっている。

純一は人質となった妻を助けるために、ある仕掛けをする。それは、人質の家族とは思えないほどとんでもないことだ。なぜそこまでするのかという疑問は、後半に明らかとなる。様々な伏線と、純一の仕掛け。仕掛けの段階では、なんのためにそんなことをやるのかまったくわからない。それが、終盤になると怒涛の展開で、事件が思わぬ方向へと動いていく。後半のジェットコースターのようなスピード感はすばらしい。不自然な部分も、キャラクターの魅力によって強引に切り抜けている。すべては前半の伏線のおかげだろう。

中盤になり友貴子がらみの話になると、物語が悲惨な方向へ進むのではないかという不安感で一杯になる。読者はある悲劇の結末を想像し、物語もその方向へと動いていく。読者の想像を誘導しつつ、最後にすっきりとした結末を迎える。安心感と共に、ミステリーを読み慣れている人ならば、「そんなにうまくいくだろうか?」という疑問が付きまとうだろう。この際、物語のその後を細かく想像する必要はない。あざやかな事件の解決手段に驚き楽しむべきだろう。

終盤の怒涛の展開は、驚かされるばかりだ。



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