アトポス 島田荘司


2013.3.2     とんでもなく長大なミステリー 【アポトス】

                     
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■ヒトコト感想

長大な物語だ。文庫版のページ数が900ページオーバーというとんでもない作品だ。これほどの厚さは京極夏彦以来だ。物語としては、前半部分にホラー作家が描いたホラー作品が登場するのだが、これが強烈に恐ろしい。貴族の女が、身分の低い女たちの血を美容のために使うという話なのだが、重厚で、この物語だけでひとつの作品として成立しそうなほどの物語。ホラー作品の作家が、自分の作品と同じように殺される。吸血鬼を印象づけ、後半では上質なミステリーとなる。700ページを越えたあたりから、御手洗が登場し、いつものようにあっさりと事件を解決してしまう。レオナ松崎がすべての元凶だとしか思えない状況を作り上げ、その後、どんでん返しがまっている。レオナ松崎がジャンキーというのが、少しズルいように感じてしまう。

■ストーリー

虚栄の都・ハリウッドに血で爛れた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児が次々と誘拐される事件の真相は何か。女優レオナ松崎が主演の映画『サロメ』の撮影が行われる水の砂漠・死海でも惨劇は繰り返され、甦る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向う。ここにミステリの新たな地平が開かれた。

■感想
前半は、身の毛もよだつようなホラー作品が登場する。中世ヨーロッパの恐ろしい習慣と、異常な美へのこだわりからとんでもない事件が起こる。まず、この物語だけで全体の4分の1は消化されているような感じだ。美へこだわる女が、あらゆる手段を用いて若い女から血を搾り取ろうとする。城の地下室で行われる惨劇を思うと、身震いしてしまう。さらには、すべてが露見し、食事するように殺していった女たちの死体の処理の仕方が…。文章だからこそまだ耐えられるが、映像化などされたらとんでもないような状況だ。

ホラー作品の余韻を引きずるように、物語はレオナ松崎がホラー作品の主人公のように吸血女だという流れとなる。現代によみがえる吸血鬼。頭がハゲあがり、顔中が血で真っ赤に染まった怪物が徘徊する。かなり恐ろしい状況で、怪物の存在をどう説明するのかが気になってしかたがない。嬰児が誘拐され、レオナ松崎主演の映画関係者ばかりが事件の被害者となる。読者は必然的に、レオナ松崎犯人説を頭に思いうかべるだろう。物語も、そうなるように様々な状況証拠を作り上げている。

この長大な物語の結末は、ごく普通のミステリー的な終わり方となる。不可解な死をとげる関係者たち。前半に用意されていた様々な伏線が、最後の最後に一気に連係してくる。中国の人魚の話などは、唐突感があり、長い物語の中では、かすんでしまいがちだが、最後に重要な意味をもってくる。御手洗がいつものとおり、最後にあざやかに解決する。巨大なセットの天井の剣に突き刺さるトリックについては、ある程度予想していたが、これほど大掛かりだとは思わなかった。事件の舞台自体が、そもそも現実離れしているというのはあるが、長大なミステリーの結末の舞台としてはふさわしいのだろう。

この長大さは強烈だ。



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