2012.3.9 無意味なことに必死な男たち 【あすなろ三三七拍子】
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■ヒトコト感想
応援団の存続の危機を救うため、社長から無理矢理、応援団の団長への出向を命じられる男。これだけでも、とんでもないことだが、本作はむちゃくちゃなことがまかりとおる世界だ。ただ、それこそが応援団だといわれてしまうと、何も言えなくなる。論理的な理由はなく、科学的な裏づけもない。ただ応援することに意義がある。応援団という時代錯誤な組織の中で困惑する45歳の団長に、いつの間にか感情移入してしまう。バカで意味のないことに必死になる男たちというのは、「なんてバカなことを」と頭の中で思いながら、その熱さに感化されてしまう。いざ、自分が応援団に入れといわれたら絶対に断るが、ちょっとだけなら期間限定で参加してみてもいいかな、なんて思わせる熱さがある。
■ストーリー
藤巻大介45歳、あすなろ大学応援団長出向を命ず―存続危機の応援団を「合言葉は押忍!」でオジサン達が復活させる、抱腹絶倒・落涙必至の快作長編。
■感想
まずありえないのが、大学生の中に45歳のオヤジが応援団長として参加することだ。厳しいOBの目が光るなか、やりたくもない応援の練習をさせられる。生活するために、会社の命令には従わざる得ないサラリーマンの苦悩が、またなんともいえない。応援団を復活させるため、素人だらけの団を必死で立て直そうとする大介。それは、よくあるスポ根モノ風だが、中身が応援団ということで、一風変わっている。勝ち負けがあるわけではなく、ひたすら根性をみせるだけの応援。なんだかこの無意味さが、男たちを熱くさせるのだろうか。
本作は長編としていくつかのパートに別れている。応援団の担当教授との対立や、娘がちゃらちゃらした男と付き合うだとか…。応援団とは直接関係ないことであっても、強引に応援してしまう。そして、応援によって何かしら強引な解決へ導くことがすごい。特に印象に残っているのは、団の存続をかけて、現役の団員たちがマラソンをし、それをOBたちが応援するという場面だ。団員たちが辛く苦しい目にあっている。それを応援するOBたちも、ひたすら腕立てをし、腹筋をし続ける。同じ苦しみを味わいながら応援するらしい。なんて非論理的な行動だと思うが、その熱さは十分伝わってくる。
いまどき応援団なんて流行らないのはわかりきっている。ただ、そんな古臭い風習に、オヤジが嫌々参加し、いつのまにか応援にのめりこんでいく。これが応援ではなく、今風の活動であれば、これほど熱くなれないだろう。時代に逆行しているからこそ、その理不尽な組織のあり方があればこそ、読者はそこに惹きつけられる。常識が通用しない組織の中で、非常識な理論を声高に主張し、それが通用してしまう世界なんて普通はない。だからこそ、この熱い勢いに飲み込まれてしまうのだろう。本作を読めば、影響され、どこか気持ちに熱さを求めてしまうだろう。
熱い気持ちを忘れたお父さん世代に読んでほしい作品だ。
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