アリアドネの弾丸 下 海堂尊


2013.4.24     最新医療機器ミステリー 【アリアドネの弾丸 下】

                     
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■ヒトコト感想

上巻は、AIセンター設立に関する問題点や、医療システムの問題など、いつもの作者の主張がメインに描かれていた。それが、下巻になるといきなりミステリー色が強くなる。冒頭に発生した殺人事件。そこから高階が容疑者となり、白鳥、田口が事件の真犯人を探し出す。上巻の流れからすると、ミステリーへ移行するとは到底思えない。

いつものごとく、作者の主張が全面に押し出されて終わりかと思っていた。高階の疑いをはらすために、白鳥が奮闘する。今までのキャラクターが総登場し、タイムリミットがある中で、どうにかして事件の真相を明らかにする。医療関係に従事する作者だからこそ描けるトリックなのだろう。多少複雑に感じるかもしれないが、ミステリーとしての面白さは十分だ。

■ストーリー

宇佐見警視は銃声の聞こえた方へ走りだす。田口らが後を追うと、最新縦型MRI・コロンブスエッグの中には目から血を流す死体があった。そして傍には、拳銃を握った高階病院長が倒れていた―。銃弾の種類と手の硝煙反応から、警察は高階病院長を現行犯逮捕する。高階の無罪を信じる白鳥・田口は、72時間以内に犯人の仕掛ける完全無欠のトリックを暴くことができるのか!?

■感想
AIセンターのセンター長である田口は、殺人事件に遭遇する。容疑者は高階病院長。白鳥、田口のコンビが高階の容疑を晴らすというのがメインだ。怪しげな動きをする事件の第一発見者である宇佐美警視。

MRIの近くで死んだ被害者の状況から、なんらかのトリックがあるのは予想がつく。が、そのトリックがどのようなものかはまったくわからない。事件の舞台が最新医療機器に囲まれた場所で、強力な磁力を持つということから、かなり特殊なミステリーとなっている。

医療機器の知識が豊富な作者だからこそ描けた作品だろう。最新医療機器を使ったミステリーのトリックなど普通は考え付かない。この特殊さを楽しめるかどうか。あまりに難しすぎて、ミステリーの作法からは外れているのかもしれない。トリックがわかってしまと「なぁーんだ」という感覚でしかない。

それでも、その先にあるのは複雑な医療現場と、最終的には権力をもつ者の思惑により、下っ端の人間たちが犠牲になるという図式に変わりはない。最新医療機器を使ったトリックという新しさはかなりの特徴だが、それ以外はオーソドックスだ。

上巻は作者の主張が強烈にアピールされており、下巻は、その状況をうまく利用したミステリーを作り上げている。死亡時画像診断のおかげでミステリーが解決したというわけではない。最新医療機器の特性に白鳥が気づき、状況の不自然さによってトリックが判明するという流れだ。

医療現場の改革というのは相当難しいのだろう。様々な妨害者の存在が、本作のミステリーの根源なのかもしれない。そのあたり、上巻で主導権の駆け引きが描かれており、その結果が大きな結末へとつながっていく。

作者の主張とミステリーが融合した形だ。


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