アリアドネの弾丸 上 海堂尊


2013.2.1     エーアイへの強烈なこだわり 【アリアドネの弾丸 上】

                     
海堂尊おすすめランキング

■ヒトコト感想

作者が強烈に主張するエーアイについて、作中の登場人物たちをたくみに動かしながら、自らの考えを披露している。エーアイに対するこだわりというのは、シリーズを通してすでに伝わっている。本作はまさにそのエーアイの組織を立ち上げる際に障害になるであろう状況を物語として描いている。上巻ということもあり、エーアイセンター設立を妨害する勢力について事細かに語られている。田口が突然エーアイセンターのセンター長を拝命し、怪しげな元警察OBが登場する。病院内の政治的なかけひきに重点がおかれているため、ミステリアスな部分は少ない。恐らく下巻では、過労死と思われた技術者の死について、なにかしら衝撃的な展開が待っていることだろう。

■ストーリー

田口&白鳥シリーズ第5弾!不定愁訴外来の田口公平医師はいつものように高階病院長に呼び出され、エーアイセンターのセンター長に任命されてしまう。そのため田口は、東城大学病院に新しく導入された新型の縦型MRI、コロンブスエッグの説明を技術者の友野から受けていた。しかしその矢先、MRIの中で友野が亡くなった。死因は不明。過労死と判断されたが…。

■感想
作者のAI(エーアイ)死亡時画像診断へのこだわりが溢れている作品だ。エーアイについての論争で裁判沙汰にもなった作者だけに、その主張は一筋縄ではいかない。というよりも、作者の主張をそのまま体現した作品なので、結論は自然と作者の思うとおりになるのだろう。作者のエーアイを広める活動の障害となっていることを、そのまま物語の中に登場させている。そのため、エーアイセンター設立を妨害する勢力というのは、いかにもきな臭い雰囲気をかもし出している。どのようにして妨害され、それを乗り越えていくのかがポイントなのだろう。

ミステリアスな要素として、MRIの中で死亡した技術者の存在がある。通常の捜査ではわからない死亡原因。遺族が解剖を拒否した場合に、最も有効なのがエーアイだという流れになるのだろう。原因不明の死因をエーアイを使った画期的な検証方法で原因を探り出す。エーアイセンターを妨害する勢力に、警察組織が関わっているのが、物語を深刻なものとしている。なぜ警察組織はエーアイセンターを否定するのか。上巻でもそれなりに語られているが、真の原因は他にあるような気がしてならない。

制度的なものや、組織の問題などにページが割かれている本作。検死解剖の現実や問題点がわかるのはいつもの作者の作品同様すばらしい部分だ。ただ、現状の問題点を強調しようとすればするほど、システムの話に終始し、興味がない人には苦痛に感じる場面がある。物語としてのドラマチックさに欠けており、田口が組織の中で翻弄される姿ばかりが目に付いてしまう。扱うテーマがテーマだけに、死の真相を解明するにしても、解剖すればわかることを、エーアイならではの…。というのは、なかなか難しいのかもしれない。

下巻でよりミステリアスな雰囲気になるのか期待したいところだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp