秋の花 北村薫


2011.10.18  ミステリーらしい事件 【秋の花】

                     
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■ヒトコト感想

女子大生シリーズの3作目。初の長編ということで、ごく普通のミステリーらしい事件が起こる。それを解決するのはいつもの円紫なのだが、「私」とその周りの雰囲気は、どこかほのぼのとした印象がある。事件は、自殺か他殺かそれとも事故か、という不可思議な状態であり興味をそそられる。ありがちなドロドロとした流れではなく、人の心を読み解くようなそんな作品だ。ただ、事件の仕掛けがわかってしまうと、ミステリーファンとしてはありきたりな印象しかない。恐らくトリックや事件よりも、事件後の関係者の心情を描きたかったのだろう。円紫と「私」の絡みがあまりなかったことからも、「私」周辺の気持ちをメインにしたいというのがよくわかる。

■ストーリー

幼なじみの真理子と利恵を待ち受けていた苛酷な運命――それは文化祭準備中の事故と処理された一女子高生の墜落死だった。真理子は召され、心友を喪った利恵は抜け殻と化したように憔悴していく。ふたりの先輩である〈私〉は、事件の核心に迫ろうとするが……。生と死を見つめ、春桜亭円紫師匠の誘掖を得て、〈私〉はまた一歩成長する。

■感想
小さいころから良く知る近所の後輩である真理子が、高校の屋上から落下するという事件が起こる。お決まりどおり、屋上は密室状態で、自殺か事故しかありえない状況となる。そこで「私」が真理子の友達の利恵や担任教師などから話を聞き、事件の裏にある何かを見つけ出そうとする。展開は、ごく普通のミステリーらしく様々なヒントや、いかにも関係ありそうな新事実が小出しにされる。読者はある程度予想するが、それらは大きく外れることになる。本作は事件のトリックや仕掛けを楽しむというより、事件の関係者の心の動きを感じるべき作品なのだろう。

このシリーズの定番として本の知識や落語の知識が必要となる。もしかしたら、事件の真相や、登場人物たちの心の動きを比喩するような落語や本の話がでてきていたのかもしれないが、気付くことができなかった。事件一辺倒ではなく、「私」の生活の変化も描かれているのはいるが、そこで関係してくる事件の真相への大きい意味でのリンクにも気付かなかった。文化レベルが高い人であれば、作者の仕掛けに気付き、作中に登場する本の内容との繋がりを楽しめるのだろう。それらに気付かないと、ただのありきたりなミステリーという印象しかない。

恐らくは読書家の間では有名な作品が、さも当たり前のように語られ、登場人物たちどうしであれこれと批評しあう。その作品自体にまったく縁がないために、批評の意味やなんらかの比喩にもまったく気付けなかった。このシリーズの特徴の一つだが、相当な本好きでないと本当の面白さを味わうことができないのだろう。取り残された利恵の心情や「私」が少しづつでも成長していく姿は興味深い。事件の真相が暴かれるまでは、トリックに対して興味が尽きることはない。それでも結論が出てしまうと、少し拍子抜けしてしまう。

長編として、読者を飽きさせずに楽しませる工夫はしっかりされている。



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