象の背中


 2009.6.4  余命半年をどう生きるか 【象の背中】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
人は余命半年と宣告されたとき、どのような行動をとるのか。まるで現代版”生きる”だ。現代人は余命半年と言われると、おそらく本作の藤山と同じような行動をとる人が大多数だろう。会社を辞め、今までかえりみなかった家族との時間を大切にしようとする。なんと言っても前半部分の藤山の行動はインパクトがある。癌で余命半年ということを親しい人へ告げていく。その表情と重い空気感。まっさきに自分に投影して考えてしまった。強烈なインパクトを残す場面なのだが、他人事ではすまされない、やりきれない気分になった。後半にかけては、まぁ誰もが想像するような流れとなる。家族の絆が深まり、死へと向かっていく。なんとなくだが、愛人へ癌を告白したあたりから、ちょっと物語りに対するスタンスというか、見方が変わってしまった。

■ストーリー

妻と2人の子供、幸せな家族4人。何不自由なく暮らしてきた48歳の中堅不動産会社部長・藤山幸弘は、今まさに人生の"円熟期"を迎えていた。しかし、ある日突然、医師に肺がんで余命半年と宣告されてしまう。その時、彼が選択したのは、延命治療でなく、今まで出会った大切な人たちと直接会って、自分なりの別れを告げることだった。

■感想
”生きる”が適当に生きてきた男が死を意識し、何か一つのことをやり遂げようとするのに対して、本作はバリバリ仕事に打ち込んできた男が、家族の時間を大切にしようとする。2作品とも、今までやらなかったことをやろうとすることに変わりはない。現代人とすれば、本作のパターンが多いのだろう。その人にとって何が一番大切なのか。死を意識しだしてから、真剣に考え、最後を過ごすべき場所を探す。やはりなんといっても前半部分がもっとも印象に残っている。余命半年と宣告され、それを周りの知り合いに少しずつ打ち明けていく。あの表情は俳優の力の見せ所だったのだろう。

藤山の深刻さよりも、周りの人々の反応の方がリアルに感じた。普段はなんでもなく、いるのが当たり前の人が、半年後には死ぬことになる。その現実を知ったとき、本人以上にその場ではショックを隠しきれないのだろう。今までそのような立場になったことはないが、予想すると同じような雰囲気になるのかもしれない。まさに笑い事ではなく、真剣に考えるべきことかもしれない。そんな中、愛人へ癌を告げるシーンから、ちょっと変化が訪れた。もしかしたら潔癖なのかもしれないが、家族思いの良き父親と思わせておきながら、裏では若い愛人がいる。なんだか、真剣に悩んでいる家族が報われないような気がしてならなかった。

後半からはお決まりどおり、死へと近づいていく藤山を周りが支えていくという流れだ。特に家族と過ごすシーンは、泣かせようという意図がヒシヒシと感じられた。素材的に十分泣ける要素はそろっているが、ありきたりすぎて、ちょっと泣けなかった。最後は誰もが想像する結末となり、大きな山や谷もない。何の不自由もなく暮らしてきた家族たちに、今後どのような危機が訪れるのか。息子や娘たちの思いよりも、藤山の妻がどのような思いでいるのか。死んでいく本人よりもまわりの気持ちを考えると、どうにもやりきれない思いが強まった。本人は全てをやりきって、本望なのだろう。

この手の作品は泣ける要素が詰まっているが、皆が皆泣けるわけではない。しかし、前半部分はかなり強烈なものがある。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp