誘拐の果実 上 真保祐一


2010.10.8  不可解な誘拐事件の目的は? 【誘拐の果実 上】

                     
■ヒトコト感想
2つの誘拐事件がそれぞれの目的に合わせたように、タイミングよく発生する。誘拐されたのが17歳の少女であり、19歳の青年であれば否が応でもある一つのパターンを想像してしまう。それは狂言誘拐なのではないかということだ。上巻ということもあり、誘拐事件の全容は明らかにはならない。ただ、普通の誘拐事件ではなく、何か大きな裏がありそうな匂いはただよってくる。あっさりと狂言誘拐というオチにするにしても、不可解な部分がある。先が見えない事件なだけに、読んでいる間中、新たな真実が明らかになるにつれ、より熱中度が高まってくる。人質を救出するための病院内での極秘作戦の場面では、かなり緊迫した雰囲気があり、さらには失敗するパターンもあるのでは、と勝手に想像してしまった。本作は当たり前の結末にはならないような気がする。

■ストーリー

病院長の孫娘が誘拐された。犯人からは、人質の黒髪と、前代未聞の要求が突きつけられる。身代金代わりに、入院中の患者を殺せ、というのだ。しかもその人物は、病院のスポンサーでもあり、政財界を巻き込んだ疑獄事件で裁判を待つ被告人だった。悩む家族、後手に回る警察。人質救出の極秘作戦が病院内で幕を開ける。そこに第二の事件が―。

■感想
不可解な誘拐事件。ただの営利誘拐とは違う、裏がある香りがする。となると、必然的に人質もグルになった狂言誘拐を想像してしまう。タイミング良く発生した二つの誘拐事件の本当の目的とはいったい何なのだろうか。上巻では誘拐事件が発生し、ひと段落つくまでが描かれている。上巻を読む限りは、まだはっきりとした目的は見えてこない。しかし、狂言誘拐にしてもすんなりと進みそうもない雰囲気がある。誘拐されたのがかたや病院長の孫娘であり、かたや両親を亡くした大学生である。二人の繋がりがあるのかないのかも、下巻への大きなポイントかもしれない。

身代金の代わりに入院患者を殺せという要求に対して、警察と病院がとった行動がなんともダイナミックではあるが、危なっかしく感じた。すぐに結果がでたから良いものを、そのまま何の音沙汰もなければ、どこまで粘り続けることができたのだろうか。警察のお役所的な言い回しと、人命第一と言いながらも、どこか保身を考える人々。極限状態になると、人の本性が現れるというのがよくわかった気がした。単純な営利誘拐ではなく、ひと捻りしてあるところが、本作の面白さかもしれない。このひと捻りが下巻でどのように活きてくるかも楽しみだ。

警察側の視点で描かれている本作。何か裏があるのを臭わせる伏線が多数登場し、上巻の段階では伏線は活きてこない。恵まれた生活を続けてきた病院長の孫娘は親子関係に何かしらの問題があり、大学生の青年は親代わりに育ててくれた祖父が入院したことで、遺産争いに巻き込まれている。この二人の心の思いを理解することで、事件の全容は見えてくる気がした。必然的に目的は入院患者の命や、金などではなく、別の目的があるように思えた。うっすらと漂ってくる真の目的だが、まだそこに至るまでの道筋がはっきりとしてこない。それは下巻で明らかになるのだろうが、大きく驚かされることがあるのだろうか…。

下巻を読んだ結果、本作の評価は大きく変わりそうな気がした。

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