誘拐の果実 下 真保祐一


2010.10.14  この動機に納得できるか? 【誘拐の果実 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻で感じたスリリングな誘拐劇。二つの誘拐事件は狂言誘拐なのか、それとも何か大きな目的があるのか。上巻では誘拐事件とそれにまつわる様々な情報が錯綜し、真実は一切見えてこない。それが下巻ではどのように解明されていくのか…。期待していただけに、落胆は大きかった。ある程度誘拐事件のオチは想像できたが、その動機に対してまったく共感できなかった。この動機でそこまでの行動を起こさせる力があるように思えなかった。営利目的の誘拐事件ではなく、大きな志の元、誰もが納得する理由を作りたかったのだろうか。あまりにこねくり回されたオチの説明ばかりにページ数を割き、誘拐事件の不明部分についてはほとんど語られることがない。この動機に大きく共感できる人はいるのだろうか…。

■ストーリー

身代金の代わりに「殺人」を求める異常な事件に続いて起こった第二の誘拐。今度の人質は19歳の大学生だった。犯人の周到な計画に翻弄される警察。試練を受け、新たな歩みを始める家族。謎は深まり、やがて恐るべき秘密が浮かびあがる…。スリリングな展開、迫真の描写。そして感動のラストへ!最後に誘拐の果実を手にする者は誰なのか。

■感想
身代金代わりに「殺人」を求め、株券を身代金代わりにする、ただの誘拐事件ではないことはわかっていた。誘拐事件に隠された真実を探るというのが下巻の大きなポイントだったのだが、最終的に示された動機にまったく納得できなかった。狂言誘拐ではないかと疑った上巻。流れ的には、狂言誘拐の流れとなり、目的がわからないまま、どこかで事件を裏で操る黒幕でも登場するのかと思った。ある意味、隠された真実というのがこの誘拐事件のキーポイントなのだろう。真実を知ったときどう思うか。事件を起こした動機を、作中の登場人物たちと同じように納得して読むことができるだろうか。

狂言誘拐にしては不可解な部分が多い。その答えをしっかりと示してくれるものと思っていたが、そのあたりは曖昧なままだ。犯人の計画にまんまと嵌っていく警察たちとマスコミ。それを操っていた犯人の目的というのが、そこまでするか?というほど、常人では理解できない部分が動機となっている。ある目的を達成するために、誘拐事件を起こした犯人。その結果、目的を達成するために払う犠牲を考えると、まともではないと思わざるお得ない。この犯人側の動機というのをどれだけ理解できるかどうかが、本作を楽しめるかどうかに大きく影響するだろう。

隠された秘密が暴かれたとき、確かに多少の衝撃は受ける。ただ、その秘密を暴くためだけに誘拐事件を起こすだろうか。さらにはラストに、動機を補完するようなエピソードも組み込まれている。作者はどこまでもこの犯人たちを英雄にしたいらしい。犯人たちに事件を起こさせた真の理由。ラストを読んだからといって、大きく納得できるものではない。動機に対してより不明確になったと言っていいだろう。物語の構成として、真実は何かという引き付けられる魅力はある。しかし、動機が納得できないと、すべての事件が茶番に思えてしまう。

上巻のスリリングさは下巻に引き継がれているが…。オチが残念だ。



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