四畳半神話大系 森見登美彦


2010.7.12  繰り返す冴えない大学生活 【四畳半神話大系】

                     
■ヒトコト感想
冴えない大学3回生が夢想していた大学生活をなんども繰り返す。4つの物語が描かれているが、時系列ではなくすべて平行した世界だ。始まるのはいつも1回生からであり、登場人物もすべて同じ。人生はたとえやり直したとしても、同じことを繰り返すと暗示するように、物語はほぼ同じ流れとなる。正直最初の物語は新鮮で面白かった。独特な世界観と濃いキャラクターたち。黒髪の乙女とのほのかな恋模様も楽しめた。しかし、それが二回目となると、思わずどこかで読み間違ったのかと確認してしまった。人物描写まで一語一句同じというのはどうなのか。これを新しいと感じるか手抜きと感じるか。一話自体は面白かっただけにこの手法が最後まで気になった。

■ストーリー

私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。

■感想
3回生となり、自分の大学生活に後悔を始めた男が、入学した直後のサークル選びでああしていれば、という後悔をやり直させるかのごとく、同じ物語が4回続く。黒髪の乙女である明石さんや、怪しげな小津。登場人物はその描写も同じであれば、行動や話す言葉までもまったく一緒だ。極めつけは物語の流れと、オチへの進み方までまるっきり一緒。4回目ともなると、ああ、そろそろあれが出てくるなぁという思いがわいてくる。さらには、小津はこうなるだろうなぁとキャラクターの行く末まで予想でき、それがぴったりと当たってしまう。

1つの物語としては面白い。繰り返しでなければすべてが新鮮だっただろう。いちいち突っ込みたくなる細かなユーモアと、小道具の数々。さらりと流された描写の中には計算しつくされたものもある。繰り返しの描写の中には、何度読んでも面白い部分もある。それだけに、同じことが繰り返されるというのは少し残念だった。これが真っ当に時系列に進んだとしたら、と思わず考えてしまった。おそらく真っ当に進んだ結果が、夜は短し歩けよ乙女になったのだろう。最初のテンションのまま、別パターンの作品であったら、夜は短し~よりも面白いキャラ設定だと思った。

京都を舞台とした奇妙な物語。大学生たちが繰り広げる物語は、事件といってもたいしたものではなく、いたずらレベルだ。そのため、終始和やかでほのぼのとした気分になる。蛾の大群が押し寄せたとしても、それはある意味物語が終わる前兆であり、恋の始まりの合図でもある。四畳半で暮らす薔薇色の大学生活とは対極にいる男が繰り広げるドタバタ劇。ほとんどが他人に巻き込まれての出来事だが、何度も同じことを繰り返すということは、それがこのキャラクターの良い部分でもあるのだろう。読み終わるとなぜかむしょうに大学生活が懐かしくなり、ピカピカの1回生に戻ってやり直したい気分になってくる。

この繰り返しが良いと思い人もいるかもしれない。



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