我らが隣人の犯罪 宮部みゆき


2009.3.15  サラリと読める良質な短編 【我らが隣人の犯罪】

                     
■ヒトコト感想
ミステリーの短編集。作者は短編が得意なようで、短編なのにしっかりとしたミステリーとしで仕上がっている。一つ一つが軽い感じでありながらも、人を唸らすようなトリックと、巧みな仕掛け。短編なので、謎を提示してから、解決するまでがものすごく早い。その分、積み重ねられる期待感というのは減少するが、ストレスなくさらりと結末が読めるのは良い。電車の中でちょっと読むには最適かもしれない。それぞれの事件が憎しみや憎悪のようなものというよりも、全体的に軽い。語っていることは重いのだが、そのシチュエーションと雰囲気が軽く、ちょっとコメディタッチに近い部分も感じてしまう。まぁ、短編だからということもあるし、硬派でお堅いテーマではないので、この流れでもよいのかもしれない。

■ストーリー

僕は三田村誠。中学1年。父と母そして妹の智子の4人家族だ。僕たちは念願のタウンハウスに引越したのだが、隣家の女性が室内で飼っているスピッツ・ミリーの鳴き声に終日悩まされることになった。僕と智子は、家によく遊びに来る毅彦おじさんと組み、ミリーを“誘拐”したのだが…。

■感想
隣の犬を誘拐する。そこに至るまでのドタバタや事件を起こした後の結末は、なんだか拍子抜けするようにあっけないのだが、練りこまれたトリックに思わずうなり声を上げてしまう。まるで、ちょっと公園にでも行くような雰囲気で犬を誘拐しようという。今までのミステリーならば、綿密な計画と、しっかりとした証拠隠滅やアリバイ工作をするのだが、本作ではそのようなことが一切ない。犯罪に対するハードルをものすごく低くしているような気がする。これは悪い意味ではなく、良い意味でエンターテイメントとして特化した作品だからそうなるのだろう。

現実と違うのは当然として、それにリアルさがないと言う人もいるかもしれない。最初は違和感を感じた雰囲気も、全体のトーンがこのように軽い感じなので、その軽さにも次第に慣れてくる。短編としてはどうしようもないことなのだが、他の長編と比べると、どうしても人物描写や背景が薄っぺらくなる。その影響が、事件や犯罪に対する軽さをもたらせているのかもしれない。軽くすれば、読むハードルは低い。重厚で壮大なミステリーにすれば、初心者お断りな雰囲気をだす。自分の中ではミステリー初心者ではないと思っているので、少し物足りなさは感じたが、短編ということを考えると十分すぎるほど楽しめた。

作者の作品には他にもすばらしい短編集がいくつかある。それらと比べると、少し落ちるかもしれないが、ミステリー嫌いな人でもすんなりと入り込める優しいつくりかもしれない。犯罪が絡む作品ばかりでなく、ちょっとほのぼのとしてしまう作品や、しんみりくる作品もある。一人の一般人が刑事に対して、自分の推理を披露する場面など、まさに作者がプロットを書く行為をそのまま描写しているような気がした。サラサラと矛盾することなく短い文章でしっかりと事件とその真犯人を言い当てる。コンパクトにまとまっているだけに、よりインパクトが強くなる。

短編ミステリーとしては入り込みやすく、とても読みやすい。



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