うちのパパが言うことには 重松清


2008.9.3  平凡だからこそ共感できる 【うちのパパが言うことには】

                     
■ヒトコト感想
社会派な小説を書く作家ということに、いつの間にかなってしまった作者。本人もそのことに対して多少の戸惑いがあるようだ。そんな作者が自分の思ったことをそのまま綴るエッセイ集。家族のことや、その時起きたホットな事件。特に子供が起こす事件についての思いが詳しく語られている。年代的に言うとかなり上になるので、こども時代の描写でノスタルジックな気分に浸ることはないが、気持ちはよくわかる。思い出の音楽や風景、そして、いつの間にか自分がもう人生の折り返し地点に来てしまった驚き。作者の素直な考え方や、行き過ぎた思いなど、その立場にならないと考えないことを、考える良いきっかけになるかもしれない。

■ストーリー

かつて1970年型少年であり、40歳を迎えて2000年型おじさんになった著者が、ある時は鉄腕アトムや万博に心動かされた少年時代の思い出を通して、ある時は現代の問題を通して、家族や友、街、絆を綴ったエッセイ集

■感想
40を迎え、おじさんと呼ばれる年齢になれば、考え方もそれなりに変わってくる。作者の人生が特別だとは思わない、誰もが似たような経験をし、今後経験していくのだろう。そう考えると、何か問題にぶち当たったときに、どうすればいいのか、どんな思いで取り組めばいいのか、別に人生の指南書なわけではないが、平凡などこにでもいるおじさんだからこそ感じることのできる共感というのは多い。もちろん、ただのおじさんがエッセイ集を発表するなどできるはずもないことなのだが…。

自分の子供時代から青春時代、そして仕事をもち家族を持つまで。さまざまな出来事を作者自身の言葉で語っている。作家という、ある種特別な職業についておきながらも、特別な雰囲気を感じさせない流れ。セレブな雰囲気を何一つ感じさせない生活描写。どう考えても世田谷の高級住宅街に住んでいるとは思えない。そして、そのことが庶民的というか、ものすごく身近に感じる要因の一つなのだろう。海外旅行しまくりのセレブな作家が書くエッセイで、ここまで共感できるはずがない。

自身の経験と共に、時事的なエッセイもある。特に少年犯罪に関する部分は興味深い。事件の原因を探るよりも、どうすればその事件を防ぐことができたのか、もし、仮に、そんな言葉が目立つが、そうすることで、病んだ日本に希望を持ちたかったのだろう。仮にという前提をおいてもしょうがないことなのだが、少年犯罪を防ぐにはどうしたらいいかを、作者なりに考えているのだろう。きれいごとではなく、年頃の娘をもつ親の本音。加害者の親になりかねない状態である者の言葉は、真に迫るものを感じた。

年代的な差異はあるにしても、懐かしさや共感は十分得ることができる。



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