トライアル 真保祐一


2010.9.6  様々なギャンブルの乗り手たち 【トライアル】

                     
■ヒトコト感想
競輪、競艇、オートレースに競馬。ギャンブルの乗り手たちを描いた物語なのだが、臨場感がすばらしい。ギャンブルにそれほど詳しくなくとも、レースの緊迫感が伝わってくる。生活するために競い合う。選手同士の駆け引きとは別に、外部から様々な妨害がある。本作は乗り手である主人公が直面する外部の問題を描いている。ギャンブルということで、レース前の管理の厳しさを逆手にとった様々な仕掛け。レースに出場することが生活に繋がっている選手たちにとって、レースを欠場するということは大きな意味がある。ギャンブルの賭ける側を描いた作品は数あれど、乗り手をこれほど的確に、それも短編で描けているものはなかなかないだろう。

■ストーリー

父を知らず、調教師の祖父に育てられ、新人騎手として修業を積む高志。馬の故障を次々と癒し、周囲を驚かせる正体不明の厩務員の過去に、彼は疑惑を抱くが…。競馬、競輪、競艇、オートレース。ファンの夢と期待を背に一瞬の勝負に挑むプロフェッショナルたち。彼らの潔くも厳しい世界を圧倒的な迫力で描く物語。

■感想
それにしても作者の取材力というか、多彩さには驚かされる。同じギャンブル、それもレース物を扱いながら、一つとして同じ雰囲気の作品がない。それぞれのレースの特徴を描き、さらにはレースでの難しさと醍醐味。何が勝敗を分けるかまでしっかりと描かれている。一つのレースにかける熱い思い。それに水を差すように迫る外部からの妨害。主人公たちが悩むのは、ライバルたちの思いであり、家族との絆であったりする。

レース前になると外部と一切連絡がとれないというのは、どのレースでも同じらしい。そこがすべてのポイントかもしれない。ある意味軟禁状態の中で、悶々とした思いを繰り広げる男たち。ギャンブルの乗り手という特殊な職業だけに、そこに群がる人々には様々な理由がある。普通の人が感じることのできない未知の世界の緊張感。人の金を背負ってレースをするという気負いよりも、自分の生活を第一に考えてレースに挑む心。特殊な状況であることは確かだ。

4つの短編の中で一番印象に残っているのは、最後の競馬をテーマにした作品だ。素性を隠した厩務員。男が世話をする馬はなぜか怪我の回復が早く、結果をだす。競馬の世界の仕組みと、厩務員の給料体系。そして、騎手の境遇など、単純に競馬を見ているだけでは気付かない部分がある。馬にどれだけ乗れるかによって騎手の実力も変わってくる。どれだけ良い馬にめぐり合うことができるのか。テレビで放送されているスター騎手たちでない、日陰の騎手がどのようにしてのし上がっていくのか。競馬の世界の厳しさというものが理解できた。

知られざるギャンブルの乗り手たちの世界。強烈だ。



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