六番目の小夜子 恩田陸


2010.5.27  恐慌を引き起こす演劇 【六番目の小夜子】

                     
■ヒトコト感想
ある高校に代々伝わる怪しげなゲーム。ただしそのゲームが実際に行われたのを経験した者に受け継がれるのではなく、新たに入学してくる者に引き継ぐ。この奇妙なゲームが物語を不思議なものへと変化させている。ただ、サヨコに関する不可思議な伝説や、結果として大学の進学率に影響するなど、きっちりとした答えは出されていない。どこにでもある青春の1ページに突如としてあらわれた刺激を楽しむべき作品なのだろう。そんな中でも一番インパクトを残したのは、間違いなく学園祭での全校生徒を巻き込んだ演劇だろう。暗い講堂の中、次々と発せられる言葉。自然に恐怖と興奮が生徒たちに蔓延し、一種の錯乱状態となる。この場面は、読んでいて恐怖と興奮が伝わってきた。

■ストーリー

津村沙世子―とある地方の高校にやってきた、美しく謎めいた転校生。高校には十数年間にわたり、奇妙なゲームが受け継がれていた。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が、見えざる手によって選ばれるのだ。そして今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年だった。

■感想
ごく普通の高校に十数年前から伝わる奇妙なゲームがある。その高校独特の伝説や噂などよくある話だろう。本作は曖昧な噂や伝説にも関わらず、なぜか途絶えることなく伝わる習慣や、ゲームが実行された場面を経験していない新入生に引き継がれるという奇妙さが物語を不思議なものにしている。噂だけが一人歩きした実態のない恐怖。ゲームの結果から大学への進学率が変化するなど、結局明確な答えは示されていない。本作の主要な謎のほぼすべては、特別な答えが用意されているわけではない。それらしく匂わされた出来事から答えを導き出すしかない。

ありきたりな青春物語も本作のポイントの一つだろう。この青春の1ページがやけにプラトニックで綺麗に描かれているのが気になったが、主要な謎を邪魔しないための心遣いなのだろう。定番的だが、ガリ勉タイプではないが成績優秀で女の子にもモテる男子生徒。容姿端麗、頭脳明晰、性格も良く同姓からも人気のある女子生徒。すべてが整った舞台で、「サヨコ」のゲームが始まり、うやむやのまま終わっている。どうしても最後ははっきりとすべての謎の解明を期待したが、そうはならなかった。ファンタジーホラーということなのだろうか。

本作でもっともインパクトがあるのは間違いなく学園祭の場面だ。「サヨコ」からの脚本で演じられた全校生徒を巻き込んだ演劇。真っ暗な講堂の中で一人ひとりが順番にセリフを言う。一種の集団催眠状態に陥りながら、恐怖と興奮が自然と講堂の中に充満していく。この場面を読んでいると、まるでその講堂の中にいるような気分になった。セリフが続けて読まれるたびに、同じ言葉が何度も続くたびに、よくわからない興奮が体の中をかけめぐる。これが最後の生徒まで繋がると一体どうなるのか。怖いもの見たさにより、興奮状態はピークに達していた。

学園祭の場面は、読む者までも巻き込む力がある。この場面だけでも読む価値はあるかもしれない。



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